守るからね

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 翌日彼は学校を休んだ。しかし彼女には「今日は空を飛ぶ」と朝のうちに空を飛んでいる彼を捕まえたので、薬で死んだわけじゃない。  彼女はしょうがないと思っていた。  時間は昨日と同じく訪れる。彼女は彼を河川敷に呼び出した。 「それじゃあ、記憶を消すからね」  約束なので彼は現れて「どうぞ」と簡単に返答していた。どうやら納得しているみたいで彼女は安心する。  忘却魔法として魔法陣を描いて、彼女は彼のオデコに張り付けると目を瞑った。すると魔法陣の紙片は光の粒になって消える。 「さて、それじゃあ帰ろっか?」  魔法のことはもうちゃんと忘れてるだろうから彼女は普通に彼に話しかけた。 「ところがどっこい。お前の魔法は通じない!」  しかし彼がちゃんと記憶を残していて、先に歩き始めた彼女が驚いて振り返る。 「どうして忘れてないの? これまで忘却魔法が効かなかったことなんてないのに」 「それは、忘却魔法を無効化する魔法を使ったからだよ」 「確かにその魔法は有るけど方法とか知らないでしょ?」  魔法は簡単ではない。彼女のように魔法陣を使ったり、呪文が必要。彼がそんなことを知っている筈はない。 「俺は普通に忘れたくないって思っただけだよ。空を飛ぶのと一緒。魔法ってそう言うもんじゃないの?」 「そーか。この薬は強力だから、願うだけでもこのくらいの魔法なら可能にしてしまうんだ。まずったな。でも、時間的にもう効力は切れてるんじゃないの?」  もちろん朝の時点で薬の効力は有った。となると半日過ぎた今はもう元に戻っている筈。そこまで彼女が計算間違いをしたつもりはない。  ニヤリと彼が笑って「薬ってこれのことか?」と言うとカバンから百粒くらい有りそうな袋を彼が取り出した。  当然彼女は「なんで?」と言葉を無くしてしまう。 「魔法なら薬をコピーすることができるんじゃないかと思ってな。思い通りだった。因みにさっき飲んだから効力はまだ切れないよ」  複製魔法まで彼が会得するとは自分の作った薬の力が怖くなる。 「理屈はわかった。それで? 魔法を使えるようになってどうしたいの? 世界征服とか考えてるんなら、バカなことは諦めなさい。あたしなんかよりもっと強力な魔法を使える人なんて履いて捨てるほどいるんだから」 「そんなことは考えてなかった。単にお前が魔法を使えるんなら、俺もって思っただけで」  キョトンとした彼だったので、彼女は心配から笑いになってしまう。 「バカなんじゃない? 単に魔法を使いたいだけって」 「そう言うけど。これって結構楽しいぞ。自由に空を飛べるなんて」 「そのくらいで楽しんでんじゃないよ。魔法はその程度じゃないんだからさー」  もう怒りも心配も忘れて彼女は笑ってた。 「んで? 俺ってこれから魔法を使える人間になれるのかな?」  どうやら彼の願いはそんなところに有るらしい。だけど「そんなの知らん」と彼女は返した。 「だけど、まあ調べてやらんでもない。ちょい待ちな」  彼女はもう彼の記憶を消そうなんて思ってないみたい。 「どうも、魔法を使えるようになったら協会に登録すれば良いらしい」  翌日、土曜なので学校は休みで彼女に呼び出されると不明瞭なことを聞かされた。  そして「取り合えず協会で聞こう」と彼女は彼を協会本部へ連れてくことにする。  彼女は簡単に歩き始めて、近所の神社に辿り着いた。あまりにいつもの風景なので「こんなに近所なの?」と彼は驚く。 「バカモノ。協会の本部はどこか知らされてないところに有る。これから移動魔法をするんだよー」  流石に寂れた神社が魔法協会の本部ではなかった。  彼女は勝手に神社に上がり込みその片隅の部屋を開いた。するとそこには魔法陣が有る。 「なんか、想像と違った場所なんだけど間違ってない?」  魔法を発動させ、光に包まれた二人が居たのは古い雑居ビルのようなところだった。 「最近ちょっと事情があって、建物移転のための繋ぎの本部なんだ。前は意味のない風格があったよ」  そう言いながら彼女は市役所的な窓口を進んで、担当者と話しを進める。  暫く待ちぼうけしていると、彼女が話し終わって複雑な顔をして戻った。 「なんか、普通に魔法を使えるようになったんじゃないから聞き取りが要るらしいんだ」  少し困った表情なのは気になったが、次の担当者は直ぐに現れて、今度は二人で小部屋に案内される。 「言葉はわかりますか?」  担当者は外国人なのだが淀みのない日本語で話している。これは翻訳魔法の力。 「魔法を使えるようになったのは、彼女の作った魔法薬の効力だと言うことですが?」 「そうです。実験台にされて、飲んだら魔法が使えました」  一応正直に答えるしか方法はなかったので彼は普通に答える。 「なるほどです。では、力的にはどうでしょうか? 一定以上の魔法を使えますか?」  その点に関しては度合いがわからないので彼女を見て「どうなんだろう?」と聞く。 「普通に結構強いと思います。私みたいに下級な魔法士よりも力があるみたいで」  話を聞くたびに担当者は「うん。わかりました」とメモを取っていた。 「どうなるんですかね? できれば面倒なことにならないと良いのですが」  ちょっと担当者の顔が渋いのを彼は気にしていた。 「現行犯逮捕になります」
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