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 ひとり残された恭介を、亡き妻の実家の皆が心配して、暮れから帰省するように声をかけてくれたのだ。    奏子の田舎は東北の雪深い街だった。  奏子の祖母は恭介のことをとても気に入ってくれて、「恭介、恭介」と実の孫のように可愛がってくれていた。 「ねえ、ばあちゃん」  恭介は尋ねた。  義理の両親や義兄一家が何か用事で出かけていて、居間のこたつに祖母と二人で入り留守番していたときだった。外はしんしんと雪が降っていた。 「このつらい気持ちが消えるっていうのは、時間が経って忘れてしまうってこと?」  奏子の祖母の久枝(ひさえ)は昨年喜寿(きじゅ)(七十七歳)を迎えたが、まだ三十代の頃に夫を亡くし、それからひとりで奏子の父や奏子の伯母を育てた人だった。  だから、今の恭介の気持ちを一番わかってくれる人だと感じていた。 「そうだねえ。恭介はなんでそんなこと思うんだい?」  久枝はミカンの皮を剥きながら聞く。 「皆に、時が解決してくれるとか、時ぐすりしかないとか言われるんだ。でも、つらい気持ちが消えるっていうのが、奏子と雛子のことを忘れることなんだったら、このままの方がいい」  二人の記憶、特に突然命を奪われてしまった二人の無念さは、決して忘れてはいけないと思っていた。 「そうかい……」  奏子の祖母はそう言って、手に持っていたミカンを置いて恭介を見た。
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