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5.
ひとり残された恭介を、亡き妻の実家の皆が心配して、暮れから帰省するように声をかけてくれたのだ。
奏子の田舎は東北の雪深い街だった。
奏子の祖母は恭介のことをとても気に入ってくれて、「恭介、恭介」と実の孫のように可愛がってくれていた。
「ねえ、ばあちゃん」
恭介は尋ねた。
義理の両親や義兄一家が何か用事で出かけていて、居間のこたつに祖母と二人で入り留守番していたときだった。外はしんしんと雪が降っていた。
「このつらい気持ちが消えるっていうのは、時間が経って忘れてしまうってこと?」
奏子の祖母の久枝は昨年喜寿(七十七歳)を迎えたが、まだ三十代の頃に夫を亡くし、それからひとりで奏子の父や奏子の伯母を育てた人だった。
だから、今の恭介の気持ちを一番わかってくれる人だと感じていた。
「そうだねえ。恭介はなんでそんなこと思うんだい?」
久枝はミカンの皮を剥きながら聞く。
「皆に、時が解決してくれるとか、時ぐすりしかないとか言われるんだ。でも、つらい気持ちが消えるっていうのが、奏子と雛子のことを忘れることなんだったら、このままの方がいい」
二人の記憶、特に突然命を奪われてしまった二人の無念さは、決して忘れてはいけないと思っていた。
「そうかい……」
奏子の祖母はそう言って、手に持っていたミカンを置いて恭介を見た。
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