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「ところが、困窮した兄は中途半端な知識で薬を作り、”時薬”として売り始めたようなんです。効果があるどころか、お客さんのようにひどい目に遭う方が多いようで……」
本当に申し訳ございませんと、くすり屋は再び土下座する。そして起き上がると、屋台の上のピンクの液体の瓶を二本手に取る。
「兄の不始末は弟の責任でもあります。これを」
くすり屋はそれを斎藤に差し出す。
「兄の薬で起きたことを帳消しにし、亡くなった奥様の記憶や失った信用を元に戻す薬は残念ながらございません。ただし、悪化してしまった夫婦仲を改善する薬は、ほれ、ここにございます。これを夫婦一緒に飲んでいただければ、また元の仲の良いご夫婦に戻ることができるでしょう。どうかこれでお許しください」
斎藤は一瞬躊躇うが、しばらく考えてその二本の瓶を受け取る。
「飲むか、飲まないかはまだわからないが、一応もらっておく」
斎藤はそうくすり屋に言ってから、恭介の方を見る。
「君も、軽率に変な薬を飲まない方がいい。これだけは忠告しておくよ」
斎藤はそう言うと、その場を去って行った。
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