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「そうだねえ。時ぐすりは忘れるのとはちょっと違うね」   久枝は恭介を見る。 「つらくて悲しい記憶が勝って忘れているけれど、たくさんのいいこともあったってことを思い出させてくれる、それが時ぐすりじゃないかね?」  久枝は続ける。 「私も亭主が死んだときは絶望して、あとを追おうと思ったさ。でも、恭介とは違い、私には子供達がいたからね」  あんたはもっと苦しいね、と久枝は優しく言う。  「でもやがて気づいたのさ。亭主は死んでしまったが、たくさんの想い出を遺してくれたってね。それからかね。悲しいことを思い出すよりも、幸せだったことを思い出すようになったのは」  久枝は微笑む。 「それが、時ぐすりが効いたってことだと思うんだよ」    あのときは理解できなかった奏子の祖母の言葉が、今は深く胸に届いた。  目の前のスクリーンが、結婚式が終わった夜のホテルの部屋に変わる。 「恭ちゃん、私たち、おじいさんとおばあさんになっても仲良しでいようね。でも、もしね」  奏子が優しく笑った。
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