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二人が妻の奏子と、娘の雛子に重なって、思わず嗚咽が漏れそうになる。
そのとき、母親が娘に何か言おうと横を向いて顔が見えたが、もちろん妻であるはずがなかった。
しかし恭介は、一年前に戻って妻子のあとを歩いているような錯覚に捕らわれて、二人のあとをふらふらとついて行った。
そうしてたどり着いたのが、神社の夏祭りだった。
立派な石の鳥居を抜けると、奥の拝殿までまっすぐに参道があり、その両側にはたくさんの夜店が並んでいる。
すぐに母子の姿は人込みに紛れ見失ってしまったが、恭介はなんとなくそのまま参道を進んだ。
楽しそうな恋人同士や親子連れ、浴衣姿の若者のグループが行き交う中で、ひとり仕事帰りでワイシャツ姿の恭介は浮いて見えただろう。
綿菓子、お面、金魚すくい、ラムネ、たこ焼き、射的、ヨーヨー釣りと、昔懐かしい夜店が続く中を歩いて行くと、ふとある屋台が目に入る。
そこで見つけたのが、”時ぐすり”という貼り紙だった。
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