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「悲しみはきっと時ぐすりが解決してくれるさ」 「家族を失った苦しみは、時ぐすりが効くのを待つしかない」  昨年の秋、暴走車の犠牲になり妻子を失った恭介は、そんな言葉を周囲からかけられてきた。  恭介の哀しみ、絶望、慟哭(どうこく)に、それ以外にかける言葉がなかったのだろう。  しかし、本当に時間が解決してくれるものなのか? 恭介にとって、それはなんの慰めにもならなかった。  小学生の頃に母を亡くし、高校生のときに父を亡くした恭介は、妻の奏子に出会うまで天涯孤独だった。  職場で知り合った一つ上の奏子との出会いや付き合いは大恋愛というほどの劇的なものはなかったけれど、明るく聡明な奏子は一緒にいて癒される存在だった。  数年の交際を経て、憧れていたあたたかな家庭を一緒に築いていきたいとプロポーズし、受け入れてもらえた。  職場の同僚や上司、友人、そして奏子の家族にも祝福されて結婚した恭介と奏子は、一年後には可愛い娘に恵まれて雛子と名付けた。奏子に似た愛くるしい娘だった。  やっと家族と呼ばれる存在、自分の命よりも大切な存在を得て、幸せでいっぱいだった。  それが……。
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