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それは雛子の二歳の誕生日の数日前のことだった。
近くの児童館にベビーカーで向かっていた奏子と雛子は、暴走車の犠牲になり亡くなった。
咄嗟に雛子を庇おうとしたのだろう。顔に傷ひとつなく、まるで眠っているような雛子の亡骸に比べ、奏子の亡骸は担当の警官に、「見ない方がいいです」と言われる程変わり果てていた。
恭介の哀しみは深く、暗闇の中その慟哭は止むことはなかった。
職場の仲間が心配してくれ、彼らのサポートもあって仕事には復帰したが、人生は暗転した。
家族のためにと購入した新築マンションは荒れ果て、恭介は食べることも眠ることもできず、げっそり痩せてしまった。
あれからもうすぐ一年。時ぐすりなんて信じていなかった。
(今のプロジェクトが終わったら、二人のあとを追う)
責任感の強い恭介はそう決めて仕事をした。
もしかしたら、そんな恭介の想いを上司は気づいていたのだろうか。誰よりも尊敬する上司で、自分のことをよくわかってくれる人だった。
彼は恭介の参加するプロジェクトが終わりに近づくと、すぐに新しいプロジェクトに恭介をアサインし、なかなか死ぬ隙を与えてくれない。
(時ぐすり……?)
恭介は興味が湧き、屋台に近づいた。
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