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 時ぐすりはたとえであり、“悲しみや絶望は時間が解消してくれるのを待つしかない”という意味だ。  そんな薬があるわけないのは、重々承知していた。  その屋台は看板に”くすり屋”とあり、”()れ薬”や”縁切り薬”など、ちょっと不思議な薬の名前が半紙に筆書きで書かれ貼られていた。  よく考えてみたら、今の時代にこんな風に薬を夜店で売っていいわけがない。  ということは、若い子向けの遊び半分のまじないみたいなものだろうか、と恭介は考えた。  屋台の上に並べられているのは小さなアンティーク風のガラスの小瓶で、惚れ薬はピンク、縁切り薬は深緑といかにもなカラーリングだ。  案の定、浴衣姿の十代後半の女の子が数人、屋台の前に陣取って品定めしていた。 「この惚れ薬って効くの?」  その中のひとりが単刀直入に聞いている。 「効くなら、(さかき)先輩に飲ませちゃう!」 「わー、ずるい!」 「抜け駆け禁止!」  盛り上がる女の子たちの声に、若い男の声が重なる。
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