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4.
くすり屋は二十代後半位の若さだろうか。丸首のスタンドカラーのシャツに絣の着物、短めの袴を履いて、鳥打帽を被っていた。どこか昔風なのも、くすり屋の演出なのだろうか。
「お客さんも”惚れ薬”ですか?」
「いや……その」
恭介は”時ぐすり”の貼り紙に目を向ける。
「おお、こちらですか」
くすり屋はすぐに気づき、優しい視線を恭介に向ける。
「時ぐすりに関心がおありで? こちらは……」
「そんなの、インチキだ!」
くすり屋の説明が始まる前に、恭介の後ろから声がする。
振り向くと、恭介と同年配の男が立っていた。
「インチキ?」
恭介がオウム返しに聞く。
「お客さん、そんな言いがかりはやめてください」
くすり屋は慌てている。
「インチキだからインチキと言ってるんだ」
男はくすり屋に冷たく言うと恭介を見て、「君も、こんな奴の口車に乗っちゃだめだ。ひどい目に遭うからね」と言う。
「お客さん、何がインチキなのかおっしゃってくださいな」
くすり屋の言葉に男はくすり屋をにらむ。
「お前、よくそんなことぬけぬけと言えるな。”時薬”を飲んで俺はひどい目に遭ったんだ!」
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