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 くすり屋は二十代後半位の若さだろうか。丸首のスタンドカラーのシャツに絣の着物、短めの袴を履いて、鳥打帽を被っていた。どこか昔風なのも、くすり屋の演出なのだろうか。 「お客さんも”惚れ薬”ですか?」 「いや……その」  恭介は”時ぐすり”の貼り紙に目を向ける。 「おお、こちらですか」  くすり屋はすぐに気づき、優しい視線を恭介に向ける。 「時ぐすりに関心がおありで? こちらは……」 「そんなの、インチキだ!」  くすり屋の説明が始まる前に、恭介の後ろから声がする。  振り向くと、恭介と同年配の男が立っていた。 「インチキ?」  恭介がオウム返しに聞く。 「お客さん、そんな言いがかりはやめてください」  くすり屋は慌てている。 「インチキだからインチキと言ってるんだ」    男はくすり屋に冷たく言うと恭介を見て、「君も、こんな奴の口車に乗っちゃだめだ。ひどい目に遭うからね」と言う。 「お客さん、何がインチキなのかおっしゃってくださいな」  くすり屋の言葉に男はくすり屋をにらむ。 「お前、よくそんなことぬけぬけと言えるな。”時薬”を飲んで俺はひどい目に遭ったんだ!」
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