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榎波愛は、困っていた。
右手の妊娠検査薬を、体温計のように二、三度ふってから、もう一度見た。
やはり陽性だ。
誰の子かわからないから困っていたのだ。
候補は三人いる。
ベンチャー、スロッター、ジュニアの三人だ。
一番最近エッチしたのはベンチャーだけど、ほかの二人とも頻繁にしてる。
つい、先週のことだ。唯一、愛の三股を知っている親友の真理子に言われた。
「ほんと、愛につける薬はないわね……」
専業主婦で子育てに追われている真理子。
唯一の息抜きが、子どもを寝かしつけた後の、愛との長電話だ。
真理子が面白がって聞いてくれるから、愛もつい、洗いざらいしゃべってしまう。
「いつまで三股つづけるつもり?」
「うーん……」
「もう二十六だし、そろそろ結婚も考えたら? ベンチャーさんはどうなの?」
「彼は一番の有望株だけど、結婚願望あるかわかんない」
「そっかあ。じゃあ二番目は?」
「顔はスロッターがタイプだけどギャンブラーだしねえ。経済的にはジュニアかな」
「そっか。博打うちは論外ね。ジュニアってアラフォーのひとだっけ? 年齢的にはちょうどよくない?」
「ジュニアねえ……なんか、恋愛対象じゃないんだよね」
「よくそれでエッチできるね」
「まあね。身体の相性は悪くないんだよね。彼、お金持ちだし」
「三人三様だから絞れないか」
「うん、それそれ!」
「ほんと、愛につける薬はないわね……」
「わたしにはセックスは百薬の長なの」
電話は、真理子の呆れたようなため息で終わった。
真理子は呆れていたが、このときの電話がヒントになった。
三人の男それぞれに妊娠したことを伝えて、反応を見てみよう。
その反応で、男の本心がわかるはずだ。
愛はさっそく、男たちと次のデートの約束をとりつけた。
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