呪い玉

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「では、いつでも明日お待ちしております」 電話を切ると、はぁ、とため息が漏れた。 とても緊張していたからだ。 明日、丁度会社も休みだし、朝起きたら見に行こう。 でも、変な所じゃなければいいんだけれど。 いや、そんな変な薬を売っていること自体、もうすでに変か… 色々考えて、なかなか寝付けなかったけれど、知らない間に眠りに落ちていた。 *** 翌朝、目が覚めて、カーテンを開けると、道を挟んで向かい側の、大きな屋敷。 私の部屋は3階なので、屋敷や庭が割と見える。 やはり、薬局なんかには見えない。 昨日の事は夢だったのか、と思ったけれど、テーブルの上に例のチラシが乗っている。 半信半疑ではあるが、藁をも掴む気持ちだった。 アパートの階段を降り、屋敷の前に立つ。 何気に表札を見ると「何でも薬局 山内」と書いてある。 本当に薬局だったのだ。 インターホンを押すと、「はい」と昨晩の電話と同じ声が聞こえた。 「すみません、昨日お電話した、矢代と申します」 「あぁ、矢代さんね、今、門を開けますね」 少しして門を開けに来たのは、まるまると太ったおじさんで、白のシャツのボタンが今にも弾けそうだ。 ニッと笑った顔が少し怖かった。 「矢代さん、お待ちしてましたよ。山内でございます。とりあえずお入りください」 通された所は、屋敷の蔵だった。 日光もあまり入らず暗かったけれど、中は整理整頓されていて、漢方薬のような香りがする。 キョロキョロと見回していると、山内さんが目を細めて、ニヤッと口角を上げた。 「普通の薬局にはないような薬が沢山ありますよ。例えば、惚れ薬とか……矢代さんは、彼氏に愛されていますね。惚れ薬は要りませんね、ウチは何の薬でもありますよ。ふふふ」 何故彼氏がいるのかと分かったのだろう。 背中に冷たいものが走る。 「昨日お話しした薬、呪い玉は相手に飲ませるだけ。無味無臭だから、お茶に溶かすのもあり、そのまま飲ませるのもあり」 山内さんが出してきたのは、5ミリくらいの黒い玉の錠剤だった。 「買われますか?」 「……買います」 こんな粒で本当に効くのだろうかと思ったけれど、とにかく試してみたい。 丁寧に呪い玉を包み、私に渡す。 私は代金をテーブルに置いた。 *** 次の日。 後輩の女の子に、お茶当番を変わると言った。 そっと、お茶に呪い玉を入れてかき混ぜる。 黒い玉は、するすると溶けて完全にお茶に混ざった。 そのお茶を緊張しながら佐藤さんに配る。 他の人にもお茶を配り、そして、自分の席に戻った。 呪い玉はすぐに効果を発揮した。 商品の個数をワザと間違えた佐藤さんは私のせいにしようとしたが、私が別件で部長といた事が分かっていたので、佐藤さんが結局ミスをしたという事で怒られた。 いつもなら、そういう事を調べることもせず、私が怒られるのに。 しかし、それぐらいなら偶然とも言えるけれど、いつも佐藤さんと一緒にいた私を苛めるグループの女子が、謝ってきたのだ。 「やりすぎて、ごめんなさい」と。 その後も、佐藤さんが私にコップの水をかけようとしていたけれど、つまづき、自分と書類に水をかけてしまい、書類の書き直しをしなくてはならなくなったり、いつものグループに助けを求めようとしていたみたいだけれど、無視をされていた。
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