クスリトドク

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 そういうわけで、俺は『薬』の使用を勧めたんだ。……『毒』じゃねえよ、『薬』だよ。  『薬』の成分?  “支配”に“束縛”、“制限”に“操作”、場合によっちゃ“暴力”。“否定”と“無視”、あと“搾取”も。  それから、忘れちゃいけない。“アイジョウ”……馬鹿。“愛憎”じゃねえ、“愛情”だってのに。  別に『薬』に名前なんかねえよ。俺は勝手に“オヤノツゴウ”って呼んでるけどな。  あの『薬』は、“いい子になる薬”、“早く成長する薬”。  『薬』のおかげで、娘は大層利口に育ったよ。幼稚なぐずりも、わがままもなくなって、あいつの言うことは何でも素直に従った。勉強だって運動だって、周りが求めるものは何でもよくできた。それはもう、あの意地悪な姑らも文句がつけられないほど、非の打ちどころのない姿に成長したさ。  そんな娘があいつの、唯一の拠り所だったんだよ。だってそうだろ。他に誰一人、あいつの味方なんかいなかったんだから。せめて娘だけでも“いい子”でいてくれなきゃ、あいつは報われないだろ。生きることすらままならなかったはずだ。  実際その甲斐あって、あいつは生き延びたよ。  ……副作用? 代償?  …………ああ、知っていたよ。  飽くまでも、当座凌ぎだと思っていたんだ。  あの『薬』は、ある程度の年月で効き目がぐっと下がる。その子が十五、十六にもなる頃には、殆ど効かなくなるか、効いたとしてもそのうち強い拒絶反応を示して、デメリットばかりがでかくなる。  だから本来なら、その頃を境に『薬』を抜いていくことになる。ごく自然に抜けていくこともあれば、ちょっとばかり苦しみながらということもある。もしかしたら、医者とか何かしら特別な助けを借りることもあるかもしれない。でも、それだって別に悪いことじゃない。  『薬』が長く留まり過ぎていると、“大人になれなくなってしまう”副作用が出る。ある一定の年齢を境に、それまでに『薬』を使った年月に応じた長さ、時が止まって、心が自ら成長を拒んでしまう。  まあそうだとしても、何とかなると見込んでいたんだよ。成長しないままじゃ、そのうち自分なり周りなり、何かしら困ったことが起きて不具合に気づく。そうしたら、『薬』を抜く選択をせざるを得ないだろ。
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