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俺が悪魔だって? よしてくれよ、人聞きが悪い。俺もあんたも、それぞれ決まった人間に張りついて、時に見守り、時に導く、所謂守り神ってところだろ。
……守り神は自惚れ過ぎだって? じゃあいいよ、呼び名なんて何でも。
俺はただ、不憫なあいつが少しでも楽になりゃいいと思って、『薬』を勧めてやっただけさ。
まあ、あいつは、俺の姿も見えなけりゃ声も聞こえないし、勧められたという自覚はないかもしれないが……え? 善意だよ、飽くまでも。
あいつの苦労がどれほどだったか、あんたは分かっちゃいないだろ。
そりゃ、あいつだって娘を産んだその時は、幸せに満ちていたと思うぜ。
それが見てみろ。産後の体力も戻らないうちに、赤子あやしながら同居の姑だの小姑だのにこき使われて、身も心も削る日々だ。
おまけに旦那が碌でもない。悪魔というなら、あの旦那こそが悪魔じゃないかと、俺は思うがね。マザコンにDV、ナルシスト。更には、いい年なのに発情した思春期みたいな男で、結婚当時から妻の妊娠中、出産後まで不倫を続けるとは、救いようのない奴だと思わないか?
娘も娘で、えらいのんびりしたガキで、歩くだとか喋るだとか、オムツがどうとか、そういうのが周りの子らに比べて、どうも上手いこといかないところがあった。いや結局ただの個人差で、その後数年もすりゃそれらもほどほどに習得して、他と大して変わらない子どもに育ったがな。
そんな鈍臭さは可愛いらしいもんだが、あいつにとってはそれが更なる心労だった。旦那やその家族、それから親戚や近所の連中が、事あるごとに余計な口を出しやがったからだ。「育て方が悪い」「何かの病気じゃないか」「かわいそう」「うちの血筋じゃない」……責任を持たない奴ほど好き勝手なことを言うのは、どこの世の中でも一緒だな。
もう、あいつは限界だった。飯は喉を通らず、まともに眠ることもできず、身体はみるみる瘦せ細っていったよ。昼でも夜でもちょっと気を緩めたら、どこからともなく罵り声が聞こえてくる。「母親失格」だの「役立たず」だの、自分を責め立てる声だ。半分は幻聴みたいなものだったが、半分は本当に言ってくる奴がいたんだよ。
分かるだろ? あいつがいかに気の毒だったか。
いよいよ頭がぶっ壊れちまうと思ったんだ。場合によっては自ら命を……なんてことも、ないとは限らないほどだった。切迫した状況だったんだよ、まじで。あんただって、だいぶ近くで見てただろうが。
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