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自分たちの寮の屋上で楓は街の景色を眺めていた。
復讐代行屋には、その後人が現れることはなかった。あの店に仕掛けられた監視カメラか、それとも男が従業員に前もって知らせたのかは定かではないがどこかで情報が流れ、場所を映されてしまったのだろう。
楓と紅葉は彼らに顔がバレてしまったことで、活動することができなくなった。それ故に今日をもって、アンμを辞任。寮から離れることになった。
だから最後にとここから見える景色を眺めることにした。普段は嫌いな太陽の光は、今日ばかりは嫌いにはなれなかった。
「かーえで!」
景色を眺めていると、後ろから声をかけられる。見ると、紅葉がいた。
『BMI』も外され、人為同調を失った二人は声を使うことでしか気づくことができない。
紅葉は楓の横につくと、一緒に外の景色を眺めた。
「よーやく、終わったねー」
「うん。でも、なんだか虚しい気分。復讐ってこんなものなのかな?」
復讐を果たす前はあんなにも感情が奮い立っていたのに、復讐を果たした後はまるで嘘だったかのように感情が微動だにしなかった。どこか虚しく、どこか寂しい、そんな気持ちを抱いた。
「これで良かったのかな?」
「良いんだよ。心の中の蟠りがなくなったんだから、ようやくこれで自由になれた」
紅葉はそう言って、楓に笑いかける。紅葉につられるように、楓も笑みを浮かべた。
復讐を果たしたことで得られるのは達成感ではない。心を縛っていた鎖が切れ自由を得られたんだ。でも、できればもう二度としたくはない。
「これから何する?」
「そーだね。旅にでも出ようか」
「おー。良いね、それ」
二人は明るい未来について語り合った。
人為同調が解けても、二人の心はいつまでも繋がっていた。
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