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「おうおうよく来たな。今日は遅いって心配してたんだよ」 「いつも悪いな、酒がきれると仕事にならんもんでな」  二匹の鬼たちが、顔を綻ばして出迎える。もっとも視線は私ではなく、手元の酒瓶に釘付けになっているが。ちなみに酒の銘柄は『鬼殺し』だ。何の冗談だろうか。私が賽の河原エリアの担当になるずっと以前からの習わしだった。  流石にそのまま出しはしない。わざわざラベルを別の銘柄に貼り替える。ちなみに本日は『越乃寒梅』だ。この訳の判らぬ慣習を考案した地蔵は、よほど鬼が嫌いだったのか、それとも底意地が悪かったのか。いずれにせよ、このような嫌がらせが今日まで続くということは、地蔵側のちんまい精神もなかなかのものだと思う。 「ちょっくら休憩でもどうでしょうか」  私の言葉を待っていたかのように、鬼どもは懐からマイ酒枡を取り出す。八尺もある身体に合わせた特注品らしい。 「おっ、今日は『越乃寒梅』か。流石だな」 「寒梅に、乾杯~!」  牛頭鬼のうすら寒い音頭を合図に、即興の酒盛りが始まった。少し離れた場所では子供たちが再び石を積み上げ始めており、鬼たちはその様子をつまみ代わりに呑んでいる。  持ってきた酒瓶は一本、二本、と瞬く間に空になっていった。捨てられた空き瓶はごろりと転がりながら、子供が積み上げた石の塔を目がけ次第に加速していく。酔っていても役目はこなす、仕事の鬼。
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