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「失礼。ちょいと厠に」  宴もたけなわな頃、私はそう言い場を離れる。いわゆる隠語であり、仕事に戻るという意味の合図だ。酒に夢中な鬼たちは「また今度な」と、こちらを見向きもせず手を振っただけだった。目指す場所はすぐ近く。石と格闘する子供たちの群れだ。  群れの中に入った私は、懐から黒塗りの名簿を取り出した。閻魔帳の一部を写しとったもので、一番新しい頁には、亡くなった子供たちの名前が記されている。 「ふくだく~ん、ふくだしんいちく~ん」  一人の子供が手を挙げる。 「おめでとう。今日で石積みは終わりだ。ここから出られるぞ」  つるりとしたむき卵のような顔を、少年は嬉しそうに綻ばせ、小さくガッツポーズをした。 「じゃあ、早いとこ準備をするんだ」  川岸の船渡し場を指さして、そこで待っているようにと促した。  正直に言うと、私は子供が苦手だ。というよりも、人間自体があまり好きではない。懲りずに諍いを起し、他人を欺き、都合が悪くなると神や仏や地蔵にすがる。そんな存在を何百年も見続けてきた結果、自分の仕事がなんとも無意味で卑しく思えてしまったのだ。 「次、ささきひろゆきく~ん。次、ありためぐみちゃーん。次……」  手元の帳簿を見ながら、機械的に名前を読み上げる。その声に反応するように、群れの中から子供たちが吐き出されていく。 「最後。あかねちゃーん」 「あかねちゃーん? いないのかなー」 「五月蠅いなぁ。何度も叫ばないでよ」  声がする方を見やると、子供と呼ぶには憚れる、女性らしい丸みを帯びた身躯の女性が立っている。慌てて名簿を確認すると、戸森アカネ。二十四歳と記されていた。 「つーかさ。“ちゃん”づけはないんじゃないかな。“ちゃん”はさ」  アカネはつかつかと歩み寄り、「いい大人なんだからさ」と言った。
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