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 ここ数日、なんだか左肩がチクリと痛む。チクリとだから、我慢が出来ないほどではない。例えるなら、戯れに楊枝でつんとされたほどの軽めの刺激だ。針灸の類と思えばむしろ心地よい。しかし痛みの原因は気になる。そう思い首を捻れば、本当に楊枝で刺したような小さな穴が開いていた。 「はてはて。これは一体どうしたことかしらん」  そう独りごちながらうんうんと唸っていると、頭上から痛みの元が降りてきた。ぽたりと垂れる滴だ。見上げれば随分煤けた祠の天井に、大きな染みが拡がっている。染みの中央から落ちる小さな雨粒が小気味良く私の肩を穿つ。ぴっちょん、ぴちょん。と、なんとも楽し気に。  何年かそれとも何十年か。なんとまあ気の長い。虚仮の一念とはまさにこのことか。肩を抉られた憤りもどこかに消え、思わずふむぅと感心してしまった。そうそう、コケと言えば適度な湿り気を好んだのか、肩をめがけて苔どもがふわふわ集まりだしている。抹茶のような肩掛けが完成するのも、おそらくそう遠くない未来だろう。そしてその頃には、木彫りの私の体は腐っているに違いない。まあ今さらじたばたしても仕様がない。ちょいと動けば済む話だが、そのまま穿たれることにした。  この世に生まれて二百年余。この地に居ついてからは百五十年近く経つ。地蔵としてはまだ青年を少し過ぎたばかりだが、これから何百年と働き続けることを想像するだけで、憂鬱になってしまう。雨粒に打たれ、苔むされ、朽ち果て自然に還るのもまた一興だ。
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