第一話 望月 麻美

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 白身魚フライ定食を注文し、トレーをカウンターの上に出し待った。しばらくすると千切りキャベツとタルタルソースが添えられた揚げたての白身魚フライがトレーの上にのせられて、小鉢とご飯と味噌汁と漬物と、更にもうひとつ同じ小鉢が置かれた。 「お待たせしましたー」  今日の小鉢にはちーちくときゅうりちくわが入っている。これは好物、いくらでも食べられるのだけれど、こんなことで良心の呵責を感じたくはない。 「えっと、あのー、これー」  小鉢を指さすと、眉がハの字で口がへの字になっている細いタレ目の男性が、ん? と私の指の先を目で追った。 「あっ、すみません」  小鉢を取ろうと手を伸ばす。 「あぁ……」  つい漏れてしまった声に男性はその細い目を少し大きく見開いて、一瞬私の顔を凝視した、と思ったら右や左と周囲を見渡した後、小鉢を小鉢の上でひっくり返した。  えっ、いいんですか? 口パクで問いかけると、彼は小さくうなずいて、どうぞと言わんばかりにトレーを私の方へ押し出した。ラッキーだ。 「ありがとうございます」  笑顔でお礼を言って土屋さんの待つテーブルへ。
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