第五話 麻美

5/11
前へ
/523ページ
次へ
 あんな思いはもう二度としたくない。 「まあそのおかげで、こんなに広いマンションが手に入ったんだから、よしとしようよ」  黙り込んでしまっている私を見兼ねたのだろう。保坂は時折、人が考えていることをわかっているような発言をする。精神科に勤めている臨床心理士だからなのかもしれないが、かといって自分の感情をコントロールすることもできないし、人の気持ちを取り違えることもあるのだけど。 「そうね、バーベキューが出来ちゃうような広いルーフバルコニーがついた三LDK。私一人じゃきっと一生買えない物件だよね。まあ買えないというよりも一人なら絶対に買わないんだけどね」 「まあそう言わずに。年下の男の子でも囲ってみたら? 小児科の勝井先生だっけ? 遊び人じゃない方の若い先生が食事に誘ってきたんでしょ?」
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加