第五話 麻美

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 お昼前、病棟に配膳車を押してきたのは庵野さんだった。  食事の数と内容をチェックしていると、隣にいた土屋さんが肘でつついてきた。 「何?」  振り向くと、庵野さんの方を見ろ! と顎でしゃくる。  配膳車にもたれ掛かりながらチェックが済むのを待っている庵野さんはうつむき加減で、その細い目が水平に真っ直ぐ並んでいて眉が真ん中の方に寄っている、そして額には汗が浮かび上がっているようにさえ見える。きっと今日が妊娠判定の日なのだろう。  二回目の胚移植をおこなったことは裕子さんから聞いていた。そのせいで数日前から庵野さんと目を合わせられないくらい私もドキドキしていた。目が合ってしまったら、なんと声を掛けたらいいのかわからない。
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