第一話 望月 麻美

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 疲弊した身体を引きずって駐車場に出ると、草むらの方からカサッという音がしてドキリとした。振り返ると大きな牝鹿と目が合った。  この辺りでは神の使いと言われているけど、この子はどんなお使いを言い渡されているのだろう。神様はたいてい意地悪だから。まさか私を驚かせにきたわけじゃないよね?  車に乗り込み、コンビニでお総菜を買ってから帰宅した。  今日はもう食べたら風呂にも入らずそのまま寝てしまおう。  手を使わずに靴を脱ぎ、廊下を進んでリビングの明かりをつける。傷んだ壁紙が目に入って、衝動的にそれを摘まみ上げ引っ張った。バリッ、ビリッ、ビリーッ、剥がしだすと止まらない。ここでの生活が次々と脳裏に浮かんで、それを切り裂くよう剥がし続けた。
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