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ハッとした。少し考えればわかることなのに。
妊娠していなかったことを告げられた夜、久瑠実は言った。
「私、和也さんと結婚して本当によかった。こんなにおいしいごはんを作ってくれて、すごく優しくて。私、絶対に和也さんの赤ちゃんを産むから、だから、もう少し待っててね」
思いもしなかったことを言われて、いやいやいや、そんな……、と照れてしまって、久瑠実の気持ちを推し量ることができなかった。
翌日には部屋に本が一冊増えていた、赤ちゃんを迎えるための本、みたいなやつだ。どんな栄養素を取るべきか、とか、呼吸法とか、ストレッチの仕方とか。
それを久瑠実は毎日欠かさず頑張っている。前向きに頑張っている、と言えば聞こえはいいが。もしもそれが、子供ができないのは自分のせいだ、と責任を感じて頑張っているのだとしたら。間違いなくプレッシャーで、強いストレスで、きっとすごく辛いはずだ。
松島君がいることを忘れて、黙々と玉ネギの皮を剥き続けていると肩を揉まれた。
「庵野さん、大丈夫っすか?」
そう、本当に大丈夫なのだろうか
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