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「これ治療として、いいのかしら……」
「はは、治療的には誰とでもできるスキンシップだと思わないといけないのに、これじゃあ恋人の一時だね」
また簡単に恥ずかしいことを言う。逃げたくなるけれど、五分はこのままでいなくちゃいけないなんて。
「セレン、顔を見せて」
「今は無理です」
「いつならいいの?」
「残り十秒になったら」
「あはは」
私は下を向いているけれど、レインはこちらをじっと見ている……気がする。上から視線を感じて、その視線だけで熱くなる。
「あーあこのまま抱きしめられたらなあ。……セレンなら大丈夫だと思うんだけど」
レインの拗ねたような口調がおかしい。
「いきなり試すのは危ないわ」
「うん、ゆっくり付き合ってくれてありがとう」
その声が少し寂しそうに聞こえたから、私は思わず顔を上げる。
目と目が合う。それは思っていたよりも至近距離で。自分でも聞こえるほど心臓の音が大きくなる。
「あ、向いてくれた」
レインの瞳にうつる自分が見える。なんだか泣きたくなる。こんな風に私のことだけを見てくれる人をずっと探していた気がする。
「早く抱きしめたいなと思うけど、こうして照れているセレンを少しずつ知っていくのもいいね」
「……ポジティブね」
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