22 凍えた喉の温め方

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「使用人用の部屋に客人を泊まらせるだなんて、ありえないことだと言われるよ」 「こっそり夜に抜け出すのは?」 「カーティスが使うだろう部屋は男性使用人たちが寝泊まりしているあたりだ。セレンをそんなところに一人で泊めるのは嫌だよ」  私の手のひらにぐっと力がこもる。レインを見ると予想に反して穏やかな顔をしている。 「この部屋にセレンといた方が落ち着くと思うんだ、たとえ夜でもね。さっきまであんなに気が張っていたのに今は王都の私たちの家にいるくらいの気持ちでいれる」 「レイン……」 「私はこの館にいい思い出が少ない。アナベルのことだけじゃなく。ここにいるといつでも息苦しいんだ。でも不思議だな。セレンがいると、息がしやすい。だから、一緒にいて」 「……もちろんよ!」  勢いよく返事をするとレインはようやくいつもと同じ笑顔を見せてくれた。 「レイン、私はいつでもあなたといるから」  もう一度ぎゅっと握る。 「ちょっとだけ抱きしめてもいいかな」 「だめよ、カーティスに言われたでしょ。滞在期間にショックが起こってしまったらアナベル様に何を言われるかって」 「そうだった」 「試すのは帰ってからにしましょう」 「はあ、早く帰りたいな」  顔を見合わせて笑う。軽口を叩くいつものレインだ。私の息苦しさも消えていく。  夜になればパーティーだ。今だけは気持ちを休めていたい。
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