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「……」
「大丈夫だよセレンたん。本当はわけのわからない男と結婚なんて怖かったんだよね?僕と逃げよう。他国には日本のような国があるみたいなんだ。所長のような黒髪黒目の人がたくさん住んでいてね。僕たちが安心できる国だと思うよ」
ニタリと笑いながらもう一度私の頬を撫で始める。
「行きません、あなたを好きになることなんてない」
「それでいいんだよ。僕はね、君のその冷たい瞳が好きなんだから。何もうつさない瞳のままでいてほしい。だから、大丈夫だよ」
この男は、私を『エモラブのセレン・フォーウッド』というキャラクターとしか見ていない。理想のセレンたんのために、私に幸せにならなくていいと言う。心が凍ったままでいいと言う。
私は、キャラクターじゃない。ちゃんと生きたセレン・リスターだ。
「さあセレンたん、君がいなくなったと騒ぎが広まる前に出発しようか」
そう言って彼はマスクのようなものを取り出し、私の耳にかけた。
「魔法具開発者というのはいいよね。今日のために色々開発しておいたんだ。このマスクはどれだけ叫んでも声は漏れないように作ってみたんだ。試しに叫んでみてもいいよ」
彼は物置の隅に置いてあった荷台を私のもとに進めた。荷台の上には先程私が入れられていた木箱がある。
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