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「お前、小牧さんと仲いいのか」
「え?」
場所をわざわざ変えて、二人きりの給湯室で尋ねられた。鶴本と二人きりなんてむさ苦しい。伊玖さんと二人がよかった……じゃない。
なぜ鶴本が知っている。これは認めていいのか? どこまで知られている? 何を言われようとしている? 鶴本相手だというのに警戒してしまう。
「昨日二人で歩いているところを見たんだが、訪問はもう終わったはずだな?」
終わった。違う意味で。
そうか、見られていたのか。そりゃそうか。毎週末近場をうろついて誰にも目撃されないほうがおかしい。だがよりにもよって鶴本とは。
「仲がいいと言うか……」
歩いているところを目撃されたということは、きっと談笑しているところを見られている。偶然会って挨拶を、なんてレベルでは済まない親密さを見られているはずだ。指輪を買った帰りだろうか。なら相当浮かれていたに違いない。しまった。それなら「自分のどこが好かれるのか」なんて話をするんじゃなかった。勘のいい鶴本なら察したかもしれない。
「訪問終わってから、話すようになって。世間話程度ならしますけど」
本当は世間話程度ではないが。愛の言葉まで交わす仲だが。ただ担当を外れてから親しくなったのは事実だ。
「どうしたんですか?」
それよりも鶴本の用件が気になる。律哉が誰と過ごそうが、追及してくることなどないのに。
鶴本はひとつ溜め息をついた。
「高倉さんの件だ。小嶋さんからも話があるだろうが、莉奈ちゃんの乳児院行きが決まった。ただ小牧さんは以前、施設へ預けるくらいなら自分が育てると言っていただろう。世間話ついでに、莉奈ちゃんを引き取る意思があるかを探れるか?」
本来なら伊玖はもう莉奈ちゃんと関わりがないはずだ。つまり詳細は明かさず、伊玖側の意思を聞いてこいと。子育て支援室としても管轄外だが、偶然にも伊玖と仲よくなったならできるだろうと。あくまで個人として。
(スパイみたいなこと、したくねえなあ……)
だから小嶋も気が立っていたのか、と得心する。結局投げ出すとなれば、そりゃイライラするわ。
「……一応、聞いてみます」
もう子どもはいいと言っていたが、どうなのだろう。莉奈ちゃん相手だとまた違うのだろうか。
今夜の会う予定が急に憂鬱になってきた。
(……あ。え、もしかして、これ伊玖さんが「育てる」って言ったら、俺も一緒に育てることになるやつ?)
別れない限りはそうなるだろう。そして別れる予定はない。
(待って待って、それはヤだなあ……)
一生自分の子育てとは無縁だと思っていただけに、気が重い。逃れようとしていた責任の重さが急激にのしかかってきた。
こういうとき、伊玖の男前さが怖くなる。人ひとりを簡単に背負ってしまえる伊玖。職員として関わった以前とは、もう立場が違う。
(莉奈ちゃんは可哀想だけど、伊玖さんに引き取ってほしくもないな……)
複雑な気分になる。他人のせいにしないのが美徳だと言われた直後なのに、高倉夫妻を恨みたくなった。
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