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「伊玖さんさ……」 「どうしたんですか?」  いつもだったらすげえクる上目遣い。ってか腕枕されて嬉しいって何それ。かわいすぎる。こっちの胸板に手置いてくっついてくる伊玖さんかわいすぎる。天使か。天使だったのか。え、俺堕天させてない? 間違いなく堕天させてるわ。それもごめん。じゃなくてさ。 「あーとね、うん」 「別れ話ですか?」 「え、違う違う! なんで?」 「歯切れ悪い律哉さん、初めて見るので。余程言いにくいことなのかと」  あーね、俺ってひと言多いことはあっても少ないことはないもんね。言い淀みはしないもんね。うるさいもんね。知ってる。余程言いにくいこと。それも当たり。伊玖さんさすが。 「俺から別れようって言うことはないから、そこは安心して」  もう引き取る気ないみたいですよ、とかって聞いたことにして勝手に鶴本に伝えられればいいのに、それはそれでモヤモヤする。伊玖がもし引き取りを望んでいたら? 機会を潰してしまう。伊玖の望むことはなんでもしてあげたい。自分にできる限りにはなるけど。幸いにも尋ねることは自分にできることで、答えを聞くこともできることだ。  なのに……怖い。聞きたくない。引き取るでも引き取らないでもモヤモヤする。聞きたくないってか、考えたくない。そんなものを伊玖に迫ろうとしている。律哉だって考えたくないことを、伊玖に考えさせようとしている。それがもうさ。  あと、ちょっと見えてる未来があってさ。そっちに行きたくないっていうか。 「あー、もし、仮にの話、莉奈ちゃんが施設行きになったら、伊玖さん引き取りたい?」  言い淀み続けて別れを危ぶまれ続けるのもなあと、ついに口に出した。  帆乃香に嫉妬する伊玖さんがかわいすぎてつい先に手が出たけど、こんなの事後にする話じゃねえよなあ。あー服着よ。萎えたし。ちょっと冷静に話そうよ、お互い。俺って伊玖さんに触れてると思考がバグるからさ。おかしい頭のIQが下がっちゃうからさ。  伊玖には案の定悲しそうな顔をされてしまった。すぐ離れると嫌がるよね。そこもかわいいと思ってるんだけど、ちょっと今回だけ許して。あ、莉奈ちゃんのほうで悲しそうな顔してんの? じゃあもうこれ、嫌な仮定ってことでいいからさ。真実は墓まで持っていくからさ。あー触ってないのにIQ下がってるわ。やっぱもともと高くないんだわ。 「莉奈ちゃん、施設行きなんですか?」  そう来るよね当然。俺でもそう思う。 「仮の話ね。伊玖さんこの前は子どもいらないって言ってたけど、莉奈ちゃんだったらどうなのかなって」  ごめんね。今回は嘘つかせて。 「そうですね……」  伊玖は悩む様子を見せた。紛れもなく男なのになめらかな上裸体のラインがなぜだか誘ってきているように見える。なんなの俺の脳内って真っピンクなの? お花咲いてんの? あ、ツルツルなのか。ツルテカ光っちゃってるのか。大脳新皮質にしわがない系ね。本能のままに生きてる系ね。えー、あほ旦那とおんなじはキツいって。今や嫁側も同等に落ちた彼ら。手放すくらいなら産むな。そこ大事。のっぴきならない事情があるなら百歩譲るとして、小嶋からは「離婚を避けるため」と聞いた。なんなんだそれは。律哉も苛立ってきた。  それを伊玖に悟られた。
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