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どうやら、僕は抜き差しならない状況に追い込まれたようだ。
裏切りは絶対に許されない。もし、裏切ったら、それなりの代償を支払うことになりそうだ。
僕はフェンス越しに麻子の姿を目で追っていた。最近、足が勝手にこちらに向いてしまう。
不審者だと思われるかもしれないので、長居はしなかった。だが、僕の姿はどうにも目立ってしまう。
ついに、パトロール中の警官に声をかけられた。
僕はかつて自分が着用していた制服姿の警官を眩しそうに見やる。
警官は僕の足元から頭のてっぺんまで見やり、職務質問をした。かつて自分がしていたことを、今度はされていた。なんだか狐につままれた気分になる。
すると、後ろから麻子が僕に声をかけてきた。
「まこちゃん...でしょう?」
警官は二人の間の空気を読んで、一礼すると、その場を辞去した。
「久しぶりだね。出てきたんだ」
麻子はあの頃とまったく変わっていなかった。僕は嬉しい気持ちを抑えて、久しぶりと言った。
「すこし、痩せたんじゃない?顔色もあまり良くないし」
「仕事が忙しくてね」
「溶接の仕事してるんだよね?」
「ああ。俺に合ってる」
「週に三回、ここに来ていたことは知ってた。でも、なかなか声をかける勇気がなくて。ごめんなさい。わたしを守るために、まこちゃんに大きな罪を背負わせてしまって...」
「気にするな。俺がやったことだ。後悔はしていないよ。元々、俺は刑事には向いてなかったんだ。俺みたいのが、刑事やってたら、容疑者を死亡させてばかりだろうな」
麻子は表情ひとつ変えない。
「あれ、今の笑うところだったのにな」
僕は笑顔を見せた。だが、麻子は作り笑いを浮かべるだけだった。
「ところで、クレプトマニアの症状は治まっているかい?」
「ええ。今のところ。今はいい薬ができてるから。それに、ひと昔前に比べて、この病気に対する理解が深まってきてるから」
「よかった。じゃあ、元気で」
僕が踵を返そうとした時、麻子が僕に抱きついてきた。僕は周囲を気にした。
「おい、麻子、どういうつもりだよ?」
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