1980年代  夏

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 母親は父親の浮気が発覚する度に、部屋にこもって泣いた。夕食を作ることさえしなくなったから、僕はインスタントラーメンで飢えをしのいでいた。  父親の女遊びはますます、エスカレートしていき、母親の精神も悲鳴をあげ始めた。この頃から母親の盗癖が始まった。  最初は文房具店でホチキスを万引きした。この時は近所だし、初めてだったので、店の人は大事にしなかった。  次はスーパーで蜜柑を盗んだ。この時は警察に通報されたが、初犯ということで見逃してもらえた。  父親にも、そのような情報は入ってきていた。だが、すでに愛想を尽かした父親にとってはどうでもいいことだった。  母親にとって、万引きする行為は、巷の主婦がカラオケをしたり、温泉に浸かったりすることと同じ意味を持った。夫への不満でパンパンに膨れ上がったストレスという風船からガスを抜く行為となったのだ。  万引きは窃盗罪になる。起訴されれば懲役十年以下、五十万の罰金だ。母親は悪い事だとわかっても、止められない。もし止められるなら、警察も精神科もいらない。  母親は六度めに雑誌を万引きしたところを店員に見つかり、警察につきだされた。常習ということで警察も厳しく対処した。  母親は警察に拘留されたが、略式起訴となり、五十万円の罰金刑が言い渡され、即日釈放となった。  罰金は僕が父親から借りる形で支払った。そのため、僕はアルバイトをしなければならなかった。だが、中学生は法律上、アルバイトはできない。だから、僕は年齢を誤魔化して工事現場などで運搬の作業などをして、借金の返済に充てた。
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