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我武者羅に走り続け、呼吸も忘れたままムキリは豪邸の扉を叩いた。
「おーーいッ!!!いるんだろ、レイ!!何で……何でッ!!!」
行き場のない感情を吐き出すかのように扉を叩く拳に入れる力は音と共に強くなっていく。
『んだよ、煩ぇな』
向こうからそんな男の声がした数秒後、ガチャン!と扉は開く。
ムキリの前に現れたのはズボンのベルトを締め直しながら出てきた四十代くらいの男、そしてその後ろには服が乱れ、髪も誰かに強引に掴まれたかのようにぐしゃぐしゃになったレイがいた。元気がなく、俯いたままの彼女は辛そうに息を乱す。
「れ、レイだよな?」
余りの変わりように思わず確認するムキリ。彼女はこちらも見ようとしなかった。生気の無い眼をして泥だらけになったムキリの靴を眺めていた。
「何だよクソガキ!ここが誰の家か分かってんのか?今良いところだったのによぉ~」
「なぁレイ!何か言えよ!何で……何でこんなところにいんだよ!!」
「用が無ぇなら帰れ。この女はもう俺の所有物なんだよ」
扉を強引に閉めようとする男。ムキリは身体をねじ込みながら、何も言わないならと彼女の手を取り、引っ張り出した。そしてそのまま男から逃げるようにまた走り出す。
「何してんだ、てめぇ!!返せぇぇえ!!俺の女を返せぇぇえ!!」
追い掛けてくる男だったが肥満体型のせいか扉前の小さな段差に足を取られて、顔面から思い切り転けていた。
走り続ける二人にはそんな男の悲痛な叫びすら遠く、聞こえなくなっていく。
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