第52話・志賀の地味で微妙な能力。人の顔より魚の顔の見分けがつく

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第52話・志賀の地味で微妙な能力。人の顔より魚の顔の見分けがつく

「それこそ次の星系で首相に街頭演説でもやらせちゃどうだ?」 「囮作戦ねえ。失敗したら目も当てられないよね」 「確かにな。けどこのままじゃ延々追いかけっこだぜ。せめてトムスキーがどうやって監視カメラやX‐RAYを誤魔化したのか、それくらいは知りたいよな」 「何処かで封じ込めないと……あ、発振だ」  震動パターンから別室戦術コンが送信元だとシドにも分かった。 「何だって?」 「今の疑問が解けたみたいだよ。本星側宙港とタイタン第一・第七宙港の監視カメラ及びX‐RAY装置の解析結果が出たんだってサ」  ハイファがリモータを突き出して見せる。 【ミハイル=トムスキーが通過したと思われる時間帯に於いて、各装置のオートフォーカスシステムに僅かな異常を検出。異常はサイキによって惹起(じゃっき)された可能性が高く、対物距離を精確に一メートル狂わせることで映像にマスキングを掛けたことが検証され――】 「ああ? 何だこれ?」  訳が分からず相棒の顔を見る。見られたハイファはゆっくりと説明した。 「つまりトムスキーはやっぱりサイキ持ちで、そのサイキは距離を測り、電子機器を僅かながら操作できるってこと。宙港のX線及び監視カメラは一瞬だけ照準を狂わせられた。ぼやけて映らないよう細工したんだよ」 「距離を測るって、アレか。スコープ要らずで観測手(スポッタ)ができるってことか?」 「そこまでサイキが届くのかは分からないけど、可能性はあるよね」 「ふうん、スポッタが天職みたいな野郎だな」  煙草を消したシドが言ったところで注文した品が運ばれてくる。二人は揃って手を合わせ食べ始めた。ロースカツに噛みついて咀嚼し、飲み込んだシドは重大なことに気付いて訊く。 「じゃあさ、こっちのスコープの照準も狂わせられるってことなのか?」  ヒレカツを一切れ食べてハイファは首を傾げる。 「さあ、それはどうかな。昨日の議会ビル襲撃で貴方のスコープは狂わなかったし」 「あ、そうか。けど星系政府登録IDに特記されないだけある目立たねぇサイキっつーか、地味だよな」 「だよね。このササミ梅しそ巻き美味しい。分けたげる」 「じゃあこっちの牡蠣フライも半分こな」  揚げ物をシェアし、茶碗蒸しを味わい、シジミのミソスープを啜り、漬物二切れとライスも綺麗に食して再び手を合わせた。シドは煙草を吸い、ハイファは出された湯飲みの茶を吹く。 「敵の特殊能力は割れたけど、だからどうだって感じだよね」 「サイキが微妙すぎて防ぐ手立てがねぇよ。ンなもん、俺たちにどうしろってんだろうな」  頭を捻ったがシドが思いついたのは、宙港のカメラというカメラに類似の異常が見られた場合、直ちにそれを知らせるシステムを付加することくらいだった。 「どうだ、不可能か?」 「不可能じゃないよ、プログラムはすぐに組める筈。でもそれを何処の宙港に仕掛けるの?」 「そいつは……くそう、次に奴らが潜入した星系が分かるまで無理か」 「そういうこと。でもかなり建設的なアイデアだよ。別室に具申しておくね」  茶を飲み終えたハイファが発振する。敵の高飛びした星系が分かり次第、そこの宙港管理システムを通してカメラにプログラムを流し込めばいい訳だ。これでトムスキーがまたも高飛びする際には直前ながら察知できる。パッシヴな手段だが何もしないよりマシだった。 「ふあーあ。あとはまた待つだけか。部屋に戻ろうぜ」  レジでクレジットを支払い、女性店員に見送られて店を出る。今度はランジェリー売り場を大きく迂回して違うエレベーターに乗った。  遠回りしたお蔭で通路を延々歩いている間、シドの対衝撃ジャケットの裾から突き出した巨大な銃口を見咎められ、二度も警官二人組に呼び止められる。丁重に説明し武器所持許可証も見せてクリア、三九〇八号室に戻った。  飲料ディスペンサーのコーヒーで二人は緩む。シドは窓際に立ったままコーヒーと煙草を交互に味わい、夜空にぶら下がる大小の三日月エンダとトーマを眺めた。  幾らもせず月を眺めるのに飽きホロTVを点ける。ハイファが少し嫌な顔をした。 「情報なら発振で入ってくるし、どの局も第一王子射殺しかやってないよ」 「だってヒマだしさ。適当にシネマでも流しておくか」  番組検索しようとするとニュースに第一王子がアップで映る。 「やっぱりカールに似てるよな。ところで第一王子が死んだってことは、カールは次の王様か?」 「まだ第二王子がいるもん。カールは第三王子で末っ子って言ってたじゃない」 「だっけな。カールはともかく他の王子に子供はいねぇのか?」 「第一王子夫妻はまだ子供に恵まれてなかったし、第二王子も結婚してないしね」 「ふうん。っと、何にもやってねぇな」 「星系中の一大事だもん、王室に弔意を捧げてるんじゃないの」  諦めてTVを消した。リフレッシャを浴びて寝ようと思い対衝撃ジャケットを脱いで執銃を解く。ソファに腰掛けたハイファの目の前でポイポイと服を脱いだ。 「先にリフレッシャ浴びるぞ」 「あっ、待って。僕も一緒に……だめ?」 「別にだめじゃねぇよ、好きにしろ」  言い置いてさっさとバスルームに向かう。軍宿舎のリフレッシャブースとは違って広かった。宙港ホテルで華美さはないが清潔で機能的である。部屋はダブル、リフレッシャも二基あった。  片側のリフレッシャで洗浄液を頭から浴びているとハイファが入ってくる。
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