第3話 黒塗りの高級車、特急呪物と化した彼氏

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「こらこらトム。万里様が選んだ相手なのだから、私たちがとやかく言う筋合いはありませんよ」 そう言ってスミスさんがトムを諭す。 「けどよぉスミスさん!よりによってこんなアイスで言えばバニラ味、カ○リーメイトで言えばプレーンみたいな女ですよ!?納得できませんって!」 なんだか私の時だけトムの語彙が低下している気がするし、万里は私をディスられたせいで今にも車内を血の海にしてしまいそうだ。 しかしその時、場違いにも私の気持ちは高揚していた。 (平凡、普通、バニラ味、プレーン……!) 思わず感極まった私は、彼の肩に手を置いて言った。 「トムさん…いいやトム!あんた最高だよ!!」 「っ?!なっ、なんだよいきなり…」 「花子…?」 驚くトムと万里に構わず私は熱弁する。 「そう、その通り…!私は平凡で普通でバニラ味でプレーンな女!なのに周りからはずっと変人とか狂人とか、度胸のカップ数ならZカップとか言われてて…!はぁ?なにそれおかしくない?!こんなにもノーマルな人間いないってのに!ね?!そう思うっしょ?!」 「え?あ、あぁ……」 困惑するトムの肩をポンポンと叩きながら話を続ける。 「いやー、でもその点マジでトムは私の本質?みたいなの理解(わか)ってるわ〜。あ、ごめんちょっと泣きそう。うっ…!ごめん、こんな平凡扱いされたの初めてだから…(涙声)よし、決めた!トム、今日からウチらズッ友だょ!帰りプリ撮りに行こ!」 「え…は?プリ?いや今それどころじゃ…」 「あ、これ可愛くない?你好(ニーハオ)ポーズ!トム香港出身だしぴったりじゃない?!あ、でも香港じゃニーハオって使わないんだっけ?まぁ細かいことはいっか!あはははは!」 「待って待って怖い!本当に怖い!!なんでこの状況でスマホいじれんの?!チャカめり込まされてるんだよ?俺!ちょ、万里様なんなんスかこの人!本当にカタギなんスか?!」 「肩ポンポン…?俺もまだされた事ねェのに……プリも誘われたことねェのに!!」 ガチャ! 「うわぁぁぁあ!今スライド引いたぁあ?!え、マジで発砲する気スか万里様!?今までなんやかんやチャカめり込ます程度だったのに!!」 「あ、トム、イ○スタやってる?後で撮ったプリ送るからID教えてちょ♡」 「撮るかボケェェェエエ!!んな事より今すぐその手をどかしやがれクソアマァァ!!!」 車内は混沌を極めつつも、スミスさんの落ち着いた𝐸𝑙𝑒𝑔𝑎𝑛𝑡な運転で無事に学校へと到着した。 「では私とトムは車を駐車した後教室に参りますので、万里様と花子様はここでお降りになって下さい」 「あ、了解です!どうもありがとうございましたー!」 そうお礼を言ってスミスさんが開けてくれたドアの方から下車する。 (いやー、急に送って貰うことになって一時はどうなるかと思ったけど、まさか新しく友達が出来るとはねぇ〜今日は良い1日になりそう!) そうルンルン気分の軽い足取りで教室へと向かおうとした瞬間、グイッと手を引かれる。 「花子〜?何1人で行こうとしてるの?」 「……わぁ、万里〜〜。」 この時私はやっとコイツが一緒だったことを思い出した。 (やっぱ今日良い1日どころか命日になるかもしれねぇわ。)
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