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(ハッ!これはチャンス!)
私はすぐさま立ち上がり、この日の為に練習を重ねたセリフを口にする。
「ちょっと!あんたバカァ?どこ見て歩いてんのよ?気をつけなさいよね?!」
「え?」
(くぅ〜〜っ!決まった…!これぞ少女漫画のザ・第1話ってやつよ!)
と、心の中でガッツポーズを決める。
(あれ?でもこれテンション的には少女漫画ってより某残酷な天使のテーゼ系ツンデレヒロインじゃね?あーセリフのチョイスミスったわ〜〜〜)
しかし、私はこんな一人反省会をしている場合ではなかった。
「……え?」
なぜならぶつかった相手が、少女漫画に出てくるような王子様では無いことに気がついたから。
(え、ちょっ、ちょまちょまちょまちょま……ちょ待てよ!!)
自分の中に宿る内なるキムタクが動揺しているのを感じ、彼の姿を見ずに話しかけたことを後悔した。
ゆっくりと立ち上がった男はかなりの高身長で、髪型は銀髪のセンター分けウルフ。チェーン付きの丸いサングラスが怪しい風貌を引き立てている。
それに加え、耳にはピアスがこれでもかと言うほどついており、手の甲から腕まで、胸元から首までといった見える範囲だけでもビッシリとタトゥーが入っていた。
そんな男が、私を見つめて…いや見おろしていた。
こんな時に常人がもつ感想はひとつ。
(やっばー!!!)
やっばー!!!である。
(あー詰んだわどうしよコレ。え?どう考えてもこの人カタギじゃないよね?うそでしょ?やべぇ、これじゃ少女漫画の1話目どころか人生の最終話じゃん。ファーwwwウケるwwwいやwウケてる場合では無いwwいや、ホントマジで。マジで笑えないからな?花子。この状況、普通に。)
表面上は冷静を保ちつつも、私の脳内はしっかりとパニックを起こしていた。
(ヒィー!怖くて何言ったらいいかわかんないけどなんか言わなくっちゃ…あークソもう知らねェ!もうどうにでもなれ!!)
そして自暴自棄を起こした私は、パニック状態の勢いそのままに口を開いた。
「ちょwおにーさん冗談じゃないですか〜☆どこ見て歩いてんのってそりゃ、私の方やないかーい!ってはーなーし!はは!いや〜思わず関西弁出ちゃったな〜!ま、私別に関西に縁もゆかりもないんですけどね!はは!もうね、ゴリゴリの東京生まれ横浜育ちのシティガールなんですわ!」
「………」
地獄みたいな空気になった。
(はい、完全に終わりました〜お父さんお母さん今までありがとうございまーす♪)
「じゃあ私もう行くので!さよーーならーーーーー!!!!!!」
ただ呆然と立ち尽くす男をその場に残し、自分でも引くほど元気な声でその場を後にした。
ちなみに私は東京生まれでもないし、横浜で育ったこともない。ただ、埼玉県民として生きた16年の人生がもうすぐ終わりそうなことに恐怖し、つい意味不明なことを口走ってしまったようだ。
(いや、ていうかあんだけビビってたのに一切謝罪の言葉が出てこなかった私の人間性って…なんかめちゃめちゃウソの自己紹介して終わったな)
生きた心地のしないまま、とりあえず私は学校に向かった。
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