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だがしかし、どうやら彼は百目鬼さんという呼び方が気に入らなかったらしく、顔をしかめて言った。
「万里君」
「え?」
「さっき俺にプロポーズしてくれた時は万里君って呼んでくれたじゃん」
「あー…」
(あのパニック時の謎テンションのヤツか〜。そりゃ心の中だったら『万里君』だろうが『瞳孔バキバキ万里様』だろうがなんとでも呼べるけど…)
あの時は恐怖のあまり、つい脳みそがイカレポンチになってしまっていたのだが、今の私は至って冷静沈着クールな女なのである。
なので落ち着きを取り戻した私に、再度あのヤク中テンションで接しろといわれてもそれは土台無理な話だ。
(そもそもヤク中ぐらいアタマラリってなきゃ反社にダル絡みとかできないし)
そういうことでこの私、クールビューティー花子は目の前の男にキッパリと言ってやりましたよ。
「じゃっ、じゃあ万里さん!…でいいスっか?(笑)いやwさっきはなんか調子乗っちゃったんスけど、自分みたいな一般市民が万里さんの事軽々しく呼ぶとかwいやホント!ホントマジでありえないっスよ〜!!!」
…まぁちょっとだけ?まだほんのちょ〜〜ッッッとだけ恐怖心が残っていた私は、まるで東方仗助のような喋り方になってしまった。
しかしそれだけビビっても、マフィアを君付けで馴れ馴れしく呼ぶなんて《普通》に反するような真似は出来ない。私はスタンドバトルが横行する町で手フェチの殺人犯を追い詰める主人公では無く、キラキラ少女漫画のヒロインなのだから。
そう思い、もう彼には関わらないでおこうとゆっくり席を立つ。
「いやホント!マジで今朝からサーセンっした!えー、では田中花子、これにて失礼致しまー…」
さりげなくフェードアウトしようと試みたその時。
「は?まだ話終わってないんだけど」
「?!」
席を離れようとした瞬間に万里さんに腕を掴まれてしまった。
(あ〜!なんで!もうほっといてくれ!!)
今すぐこの手を振り払ってやりたい。が、そうすると私の命が危ういでここは大人しくその場に留まる。
「ねぇ花子、どうして俺は花子に百目鬼さんとか万里さんとか他人行儀な呼び方されなきゃいけないの?」
「え?いや、だって今日会ったばかり…」
「おかしいでしょ、俺たち付き合っているのに」
「あ、えーっと、その事なんスけど」
「しかも結婚前提にしての交際なんだから、万里さんはまだしも百目鬼さんはないでしょ。花子もいつかは百目鬼になるんだから」
「いや、ちょま」
「てか花子からタメ口にしようって言ったくせにさっきから何?その喋り方。なんか壁作られているみたいでスゲェ嫌なんだけど」
「あの」
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