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やっと一番端にある屋台まで歩いてきた私たちは、一旦屋台の後ろへと行き、地獄のような人混みから抜け出した。
「なにか食べたい物あった?」
「あ、私かき氷食べたい!」
男子の言葉にすぐに反応したのは夏美だった。
「確かに、暑いもんね」
「冷たいの食べないと溶けちゃいそうで……」
「他は?」
「私トッポッキがいい。屋台で見たの初めてだし」
こんな田舎なのに、まさか屋台でトッポッキが食べれるだなんて思いもしなかった。だからトッポッキと言えば、夏美じゃない友人の優子が「あ、私も!」と手を上げた。
優子から視線を逸らし、期待の眼差しで涼太を見ようとした時だった。
「俺、かき氷」
予想もしていなかった発言に、間抜けな「え」という声が漏れそうになったが、必死になってそれを呑み込んだ。
私が声を漏らしそうになっても、おかしくはない。
だって涼太は、トッポッキが大好きだから。
チラチラとこちらを見ていたのも、それを合図する一つでもあるのかなって思っていたのに。だから別に食べたくもないトッポッキを提案したというのに。
本当に、意味が分からない。
あの子のこと、苦手なんでしょ?
それなのに、わざわざ同じ物を選ぶなんて。
(なんなの……?)
涼太と同じ物を食べたいと先に行った夏美は、特に嬉しそうにはしていなくて。少しだけ口角を上げて、友人たちの話が終わるのをひたすら待っている様子だった。
夏美は、涼太のことなど好きではない。
嫉妬なんてする意味なんて、どこにもない。
夏海の反応を見て安心するべきなのだろうけど、一度覚えた嫉妬は、なかなか消えてくれなかった。
「じゃあ、買ったらここに集合な」
「あぁ。じゃあな」
かき氷、からあげ、トッポッキと、それぞれが食べたい屋台へと向かう。
私だってトッポッキじゃなくて、かき氷が食べたいよ。夜になったっていうのに、こんなに暑いんだもん。トッポッキ暑くていやだよと。なんて今更言えるわけもなく、夏美と涼太が並んでかき氷の屋台へと向かって行く後ろ姿が見えなくなるまで、ひたすらじっと見つめてしまう。
涼太がかき氷って言ったこともおかしいけど、二人で行動するのも普通に考えておかしいじゃない。私は女子同士だし、からあげ組だって男子同士で。どうしてかき氷組みだけ男女なのよ。
別に私が涼太と二人きりになれるように協力しろ、とかそういうわけではない。夏海は私が涼太に恋をしていることなんて知らないんだから。でも、普通ならちょっと気まずいとか、おかしいな、とか思わないのって話。
二人ともすんなりと受け入れちゃってさ。
あぁ、本当に心が狭い。
今日はいつもにも増して、自分の嫌な部分がハッキリと見えている。
浮かれていたからこそ、ちょっとしたことで傷つく自分がいて嫌になる。
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