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晩夏
毎年、同じ日にちに行われる花火大会。
何歳になっても花火大会は楽しみの一つで、この時期になると何故か浮かれている自分がいたが、今年はいつもより浮かれていた。
いつもは仲の良い友人2人と花火大会に来ていたけど、どういう流れか、仲の良い男子3人とも一緒に行くことになった。その男子の中には、私が長年恋焦がれている相手がいる。
毎年〝今年こそ会えないかな〟なんて思いながら、彼の姿を探していたけど、今年は一緒に行けることになったから探さなくてよくなったし、何なら隣同士で歩く可能性だって出てくるわけで。色々と意識をしてしまっている私は、今までつけたこともない香水なんかつけちゃったりして、もう、とにかく浮かれていた。
高校最後の夏。
私にとって、高校生という期間は凄く特別で。その3年間で3回もある花火大会は本当に特別で、そんな特別な日に私は誰にでも言えるような思い出作りなんかしたくなくて。この曖昧な関係で終わらせたくなくて。ここ一週間ずっと想像していたものを頭の中で整理しながら、集合場所である駅で友人たちを待ち続けた。
「え!? 浴衣着てこなかったの?」
集合時間の5分前に現れた女子の友人たちは、私の格好を見るなり、かなり驚いた様子を見せた。
それもそうだ。友人たちと浴衣を着る約束をしていたのにも拘らず、私は浴衣ではなくて白Tにショートデニムという、ザ田舎の高校生って感じの格好で来ていたのだから。
「なんで私服なの!」
「お母さん出掛けちゃって」
「それなら浴衣持って私の家に来ればよかったのに」
「あ、そっか。全く思いつきもしなかったわ。ごめん」
「一回帰って浴衣着る? 葉月、浴衣着るの楽しみにしてたんだし」
「それはあいつらに悪いよ。私服でも楽しさには変わりないから」
自分の為にだと、こんなにも罪悪感もなくスラスラと嘘がつけるもんなんだ。
ほんの少しだけ、自分を軽蔑はしたけど。
私はあえて、浴衣を着てこなかった。
そんな私の考えなど当然二人には伝わるわけもないし、理解だってしてもらえないだろう。
自分たちだけ浴衣を着てきたことに申し訳なさそうな顔をしている一人の友人に近づき、口角を上げながら可愛く編み込みされている頭を軽く撫でる。
「夏美、白い浴衣凄く似合ってる」
「ありがとう」
暗い表情から一変して、花がパッと花が咲いたように笑うこの子のように、私だって可愛い浴衣がある。
でも、それじゃ意味がない。
──みんなと同じ、じゃ。
そんなことを思っていると、遠くから「おーい!」という聞き覚えのある声が聞こえて、3人一緒にそちらに視線を向ける。
私たちに呼びかけた男子など私の視界には入らず、校則違反の少し明るい髪の彼しか私の視界には入ってこなかった。
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