良い加減

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集団行動が苦手な間取(まとり)は医者になってから東京の医局で厳しい研修を終えると、さっさと派遣仕事を受けては糊口(ここう)(しの)ぐような反面お気楽な働き方を選択した。 同僚の医者なんかはあからさまにそんな生活をする彼女を怪しんでいるが元々無口なのでそれ以上詮索されることなく、今日も遠方ながら美味しいたこ焼き屋がそばにある大阪のとある医師会の休日当番を引き受けていた。 こういう業務は何も無ければただのお留守番なので日当はそれほどでもないが、小さな診察室は清潔で居心地が良くそれだけで得した気分になれる間取であった。 隣の処置室にベテラン看護師さんがふたりいて、どこの関西弁なのか大きな明るい声でお喋りしているのが漏れ聞こえるのどかな日だった。 夕方までほとんど何もなくあと1時間ほどで終わりという時に、急患が来た。 20代後半のご夫婦で、ころっとした体型の奥さんの右手には包丁が握られ、左手から血を流している。 料理の最中に手を切ったのかと診ると、それほどひどい傷ではなく2針ほど縫っただけで処置はすぐ終わったが。 「あんたなんかと結婚したのが間違いやった!」 「あほなこと言わんといて!ほな別れようやんけ!!」 「簡単に別れられる思てるん?うちのことこないにボロボロにしたのは、あんたなんやさかい!あんたなんか社会のゴミや!殺してうちも死んだる!」 どうやら、夫婦喧嘩で妻が包丁を振り回した挙句に自分の手を切って、逆ギレしてここに連れて来られたらしい。 妻は、はんなり京都出身。 夫は、お笑いのメッカ大阪出身。 という東京育ちの間取の持つ関西圏のイメージとは違いすぎる。
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