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「もしもし、どうしたの」
「どうしたじゃないよ。おまえ今どこにいるんだ」
「どこって、あなたの家よ。部屋の掃除も兼ねて来たのよ」
「えっ、そうなの。俺も家に帰って来たんだよ。休みが取れたから」
「………。えっ」
夫からの返答に、言葉が出なかった。
「もしかして、すれ違い。せっかく休みが取れたのに何だよ。そうだ女房のところへ行こうと思って帰って来たのに。おまえまだそこにいるな。新幹線に乗ったらまだ間に合う。今からそっちに向かうから、俺が帰るまでそこにいろよ。それじゃ」
「あのちょっと」と言う前に、夫からの電話が切れた。
私はスマートフォンを見ながら、笑ってしまった。
こんな事になると思わなかったからだ。
「とりあえず掃除しよう」
私はスマートフォンを鞄にしまって、掃除を始めた。
目に見えないところが汚い。
そう思いながら掃除をして、終えた後に満足している自分がいた。
一旦畳んだ布団を敷き直す。
明らかに干していない布団。
だけど夫の温もりがそこにあった。
「ちょっとだけ休もう」
私はそう思い、布団で横になりながら、夫の帰りを待った。
(終わり)
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