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急な話
「なぁ、ハワイに行こうぜ。」
誠が急に妻の恵に言った。
「え?な~に言ってんのよ。どこにそんなお金があるの?」
「いいじゃん、金なんてどうにでもなるさ。お前だって行きたいだろう?」
「そりゃ、昔から憧れてはいるけど。一般庶民は来るなって感じじゃない。」
恵は誠が何を考えて急にハワイに行こうなんて言い出したのか、まだピンと来ていない。
誠と恵は45歳。子宝には恵まれなかったが、夫婦二人で働いているのでそれなりに貯金はある。でも、それは老後の資金の為にとってあるお金なのだ。
でも、恵だって行きたくないわけじゃない。でも、二人共、特に大手の会社で勤務しているわけでもないし、二人共いわゆる恵まれた家で育ったわけでもないので、地元の高校を卒業して、地元の一般企業でそれぞれ務めて、同級生同士、身分の差もなく何となく結婚したと言う夫婦だった。
お金の苦労は小さい頃から知っているので、二人共老後位は楽に生活をしたいとコツコツ貯金しながら生活しているのだ。
それでも、貯金は二人でも1000万円に満たない。
ここでドーンと旅行に使ってしまったら今の金額まで貯金するのに、もう年を取りすぎて追いつかないだろう。
誠だって、それくらいの事は分かっている筈なのに、突然のハワイ行き。
何かあったのかしら?恵はそう思って誠に聞いた。
「ねぇ?会社で何かあったの?」
「いや?特に何も。たださ、コツコツ働いているだけじゃつまらなくなってさ。今は人生100年時代って言うじゃない。使ったって、仕事辞めるまでにまた貯金はできるんじゃないかな。」
そこまでいうなら。と行きたくないわけではなかった恵もハワイ行に賛成することにした。
初めての海外旅行の為まずはパスポートの申請をして、旅行会社へ。
個人旅行だと不安なので、ツアーでガイドがついてくるものを選んだ。
着々と準備は進み、二人はハワイ航路へと旅立った。
飛行機は誠の実家が九州の為、よく利用していたので、飛行機自体には不安はなかった。ただ、日付変更線で時計を変えたり、何の目的でいくのか書かされたり、海外に行くのには面倒な手続きが結構あった。
あと、4時間でつこうかという所で、突然飛行機がガタガタと揺れた。
「当機はエンジントラブルの為、成田空港に引き返します。」
機長からのアナウンスだった。
「え?」
誠と恵は驚いて顔を見合わせた。
近くの海外の空港に降りるならともかく、日本まで引き返すとは。
それに、誠は軽い予知能力があって、もし、飛行機がトラブルを起こすようだったら、事前にわかりそうなものだったのに、そんな予感の一つもしなかったのだ。
成田近くまで引き返した飛行機だったが、ガタガタはおさまらず、
「当機はこれより緊急着陸をいたします。」
と再び機長からのアナウンスが流れた。
誠と恵は緊急着陸の姿勢をとって、衝撃に備えた。
********
「あなた?あなた?」
恵みの呼ぶ声がする。あぁ。飛行機は無事についたのか?
「あなた、遅刻するわよ?」
「あれ?」
「あれ?じゃないわよ。何かうなされてたけど大丈夫?」
誠はタオルケットを丸めてくしゃくしゃにおなかに抱いて丸まって寝ていた。
「まさかの夢落ちかぁ。」
「何がよ。早くしないと飛行機に遅れるわよ?」
「え?何の?」
「ハワイ行の飛行機でしょ?」
誠は、ハッとした。今のは予知夢か。
「恵、ごめん。今回のハワイ行はキャンセルしよう。」
「え?今日の今日じゃキャンセル料半額とられるわよ?」
「うん。でも、飛行機が落ちる夢を見たんだ。」
「あぁ、それなら仕方がないわね。」
恵も誠の予知能力を信じていた。
実はこれまでもそうやって、国内の旅行もキャンセルしていかれなかったことが多かった。
誠の予知能力は小さい頃にお天気を当てると言う他愛のない事象で当たったことがあるだけだったのだが、何故か二人はこの予知能力を信じていた。
その為にふたりは無事生きているのだが、そういった予定を立てて、キャンセル料を払ったりしているので、思いのほか二人には貯金がないのも事実だった。
結果、誠の実家に帰る以外の旅行は若い頃からすべてキャンセルになり、誠の実家以外には行ったことの無い恵だった。
誠の予知能力が本物かどうかはわからないが、今回のハワイ旅行のキャンセル料はかなり貯金に響いたので恵は、しばらくは誠が
「そうだ。○○へ行こう。」
と、言わないでくれるといいなと思うのだった。
【了】
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