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「……ここだ」  見覚えのあるトンネルの手前で車を停める。  山崎は黙ってシートベルトを外して、車から降りた。俺はなかなか車を降りることができない。降りてしまえば、また後悔の念に苛まれる気がした。  窓ガラスを軽く叩いて、山崎が降りるように促す。覚悟を決めて、俺は車を降りた。  トンネルは古くなり、前よりも薄暗さを増している気がする。カツカツと2人の革靴の音が響く。  二度とトンネルを抜けられないような気がしていた。あれから、ずっと。  あのトンネルの中に、俺一人が取り残されたような感覚。一人だけ未来に進めない。  出口を前に俯いて立ち止まる。顔を上げられない。あの頃の3人はもういない。俺は、俺は―― 「先輩、ほら。綺麗ですよ」  山崎の声に、おずおずと顔を上げる。  真っ暗なトンネルの先、あの日と変わらない青空と入道雲が四角く切り取られている。 「ほら、行きましょう」  背中を押されて、よろめくように踏み出す。1歩進んで仕舞えば、あとは簡単だった。  トンネルの出口に立つと、目の前に海が広がった。空の青さと雲の白さ、木々の緑と海の蒼。  あの時3人は、こんな景色を見ていたのか。  俺のいない未来で、今どうしているのだろう。  たしかに車で通ったはずなのに、景色なんて忘れていた。後悔のトンネルの中に、一人で立ちすくんでいたから。  カシャ、と音がして振り向くと、山崎がトンネルの中から俺の背中を撮っていた。 「なにしてんだよ」  歩いてきた山崎の頭を軽くはたくと、へへっと悪戯っぽく笑って画面を見せた。 「これで家族が揃いましたね」  俺の立っていた場所は、あの写真のちょうど春の隣の位置だった。意図して立ったわけではないが、偶然の悪戯に鼻の奥がツンとした。 「離れても別れても、家族は家族っすから」  山崎の言葉に、俺は小さく頷く。 「さ、帰るか」  俺が笑ってそう言うと、山崎は口を尖らせた。 「ええっ、ここまで来たのに海行かないんすか!?」 「バカ、行ってる暇あるか! 水着もねえのに」  もう一度山崎の頭をはたいて歩き出す。見るだけでも、と食い下がる山崎をあしらって、車のエンジンをかけた。  ふとスマホを見ると、山崎から先程の写真が送られてきている。3人の写真と見比べて、小さく笑みを浮かべた。別れてから一度も3人には会っていない。でも。  俺もトンネルを抜けたよ。  なんて、華にメールしてみようか。  わけわかんない、とかそんな言葉が返って来そうだ。  車の窓を開けると、ふわりと温かな潮風が吹き込んでくる。 「さ、行くか」  俺はアクセルを踏んで、トンネルを通り抜けた。  
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