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「たしか牛窓町ってところだったはず」  高速を下りて、うろ覚えの道を走る。山崎が素早くナビを操作して、牛窓海水浴場に目的地を設定した。 「写真があるんだ、1枚だけ」  信号待ちの間にスマホを開き、写真を見せる。  トンネルの中から撮った1枚。出口には夏の青い空と白い入道雲を背景に、華と春と優が手を繋いで立っている。 「いい写真っすね、顔は見えないけど」  俺は苦笑した。逆光でちょうど顔が映らなかったのだ。 「映らなくて良かったよ、みんな泣いてたんだ」    あのトンネルを通ったのは、帰り道のこと。 「見てパパ、トンネルの出口さ」  優が後部座席から指を差す。 「ん?」 「空と雲が四角く切り取られてるみたい」  本当だな、と笑った。ふと思いついて、トンネルを出たところの道路脇に車を停める。 「写真を撮ろう」  俺は携帯を持った手を振った。ちゃら、と華と春が手作りしたストラップが揺れる。  怪訝な顔で車を降りる3人に、トンネルの出口に立つように指示した。 「俺は映らなくていいから、そこに立って手を繋いで」 「パパは映らないの?」  春が眉を下げて言う。優しい子だ。俺は春の頭を撫でた。 「この写真を見て、3人が仲良く暮らしてるんだなって思えるように、な」 「でも」  食い下がる春の手を、華が握った。 「行こう、春」  子供のように華は駆け出す。3人は手を繋いで、引っ張り合いながら出口に立った。  暗いトンネルに立ち、携帯を構える。手が震えて、泣いていることに気づいた。3人にバレないように、汗を拭うふりで涙も拭う。 「撮るよ!」  後悔を振り払うように、声を上げた。手を繋いだ3人が笑う。涙の滲んだ顔で。  カシャ、と電子音がトンネルに響いた。  トンネルの向こうにあったのは、俺の届かない未来。もう戻らない過去の美しい思い出。蝉の声、潮の香り、3人の笑顔。
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