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やがて、僕達の番になる。縋るようにカズハの手を握りながら、僕は前へ前へと進んでいった。
病院を模した通路を、切れかけた緑色のランプが照らしている。放置されたベッドを発見。嫌な予感がすると思った直後、血まみれの入院着を着た男性が這い出してきた。
「ウウウウ、アアアアアアアア……!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
声にならない声を上げる僕、こわーい!と言いつつ面白がっているカズハとは対照的である。
なるべく早く歩きたいと思うのに、カズハが楽しむようにゆっくりと進むからどうしようもない。
やはり、人形で脅かされるのとは一味違う。役者たちの演技は迫真モノで、はっきり言ってお化け屋敷だという認識がなければ本物と見間違えたかもしれなかった。
突然天井から伸びてくる人間の手。
ドアのすき間から恨めしそうに除く目玉。
不自然な赤黒い液体でぬるつく通路。
そして、痛い痛い助けて!という切羽詰まった悲鳴が聞こえる謎の部屋。
――誰か、僕を、褒めて……気絶しない僕を褒めてええええ……!
心の中で絶叫しながら、一体どれほどの時間歩いただろうか。ようやく、僕は手術室と書かれた部屋の前に辿り着いたのだった。
部屋の扉には、何枚もお札が貼られている。そして、今のところ先に進んだであろう家族やカップルに追いつく気配はなかった。スタッフがそこは上手に調整してくれていたらしい。いや、今の自分にとってはありがた迷惑な配慮でしかないが。
震える手でちゃちなお札を扉に貼り付け、さあ戻ろうとした時だった。
「ええっ!?」
一体、どういう仕掛けになっているのだろう。
たった今、この部屋の前に降りて来た階段がなくなっているのだ。僕は目の前の壁をぺたぺたと触る。開く気配が、まったくない。やめてくれよ、と泣きそうになる。ここにきて、自分の手で出口を探さなければいけないなんて、そんな謎解き要素は期待していないというのに。
――むり。もう限界。むり。楽しむ余裕なんかこれっぽっちもない!
スマホを取り出したところで気づいた。さっきまで確かに傍にいたはずのカズハの姿がない。もしや、はぐれてしまったのだろうか。いや、階段を降りる時まで確かに一緒にいたはずだ。と、いうことは。
「カズハおんまええええ!人を置いていくなよおおお!」
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