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おばけやしき。
「あっそうだ!お化け屋敷行ってないじゃーん!行こう今行こうすぐ行こう間髪入れずに行こー!!」
「げ」
カズハが言い出した言葉に、僕は思わず濁った声を上げてしまっていた。
確かに、僕は今彼女と一緒に遊園地なる場所にいる。そして遊園地の典型的なアトラクションとして、お化け屋敷は有名なものの一つではあるだろう。コイツがない遊園地は、全国的に見ても少ないはずだ、多分。
ポニーテールを揺らし、子供のようにきゃっきゃと声を上げるカズハはとても可愛らしい。だが、僕としては笑顔で“そうだね、お化け屋敷行こう!”と頷ける心境ではないのもまた事実なのだった。
なんせ、僕がこの遊園地に来た理由は実際のところアトラクションを楽しむためでも遊園地ランチをするためでもない。大学の飲み会で、酔っぱらった拍子に友人たちに言ってしまったこの発言が原因だ。
『ナメんなよ、ばーかばーかばーか!僕だってなあ、ナンパくらいできんだぞ!黙ってりゃ、人をドーテーだなんだと馬鹿にしやがってえええ!見てろよ、成果出して、お前らぎゃふんと言わせてやるんだからなああああああ!』
つまり。
僕にもナンパなるものができ、かつ成功できるということを示す為という実に不健全な理由だったわけで。
いや、正直なところ翌朝酔いが醒めたところでかなり後悔したわけだが、言ってしまった言葉は取り消せない。なんといっても、翌朝一番、友人から送られてきたメールがこれだ。
『昨日の言葉忘れんなよー?カワイイ彼女とのツーショット写真送ってこいや(≧▽≦)!』
なんとも顔文字が憎たらしい。
こうなってしまった以上もう取り消せず、女の子たちも浮かれてやってくるであろう遊園地に足を運んだわけである。――この遊園地に、どんなアトラクションがあるのかろくに調べもせずに。
「お、お化け屋敷、この遊園地にも、あるんだ?」
平静を装うとした、僕の声が震えている。そんな僕の腕に絡みついて、カズハは“知らないのお?”と上目遣いで言った。その顔は反則だ。
「あるよ!すっごいやつ!別料金だけど、大して高くないからダイジョウブ!」
「あ、いや、そういうことを言っているわけではなくてですね……」
「ダイジョウブダイジョウブ!あたしがついててあげるから!エイくんが実は超怖がりでも失望したりしないよお!」
「わかってるならもうちょっと遠慮していただけませんかね!?」
彼女はまったく容赦がない。
某ネズミの夢の王国のお化け屋敷さえ、怖くて入れない僕である。正直既に泣きそうになりながら、引きずられるように彼女についていくしかなかったのだ。
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