6.学校(2)図工の時間

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6.学校(2)図工の時間

 四限目の図工の授業は、心の風景を絵の具を使って表現する、というテーマだった。最初に道具の確認をしてから制作に入る。  心の風景って、何を書いたらいいんだろう?  皆もそう思ったみたいで、教室の所々でひそひそ話しているのが聞こえる。 「ねぇ、瑠奈は何描くの?」 「私去年の夏に家族で出かけた海の風景描こうかな」 「海! いいね! じゃ、私は蛍を見に行った時の絵を描こう」  前の席の田辺さんと村上さんが話している。結構自由に描いて良いみたいだ。私は、どうしよう。旅行はあんまり行ったことないし、転校前の学校の行事を描くのも気が進まない。 「先生、夢で見た風景でもいいんですかー?」 「もちろん、なんでもいいぞ」  男子が先生に質問している。  あっ、そういう絵でもいいんだ。  だったら、私はお気に入りの絵本の風景を描こうかな。  冬の夜に女の子がお父さんと森の中にミミズクを探しに行く物語。  そうと決まると、描きたい場面を想い出して、画用紙に下書きしていく。下書きが終わったら、絵の具で色塗りだ。途中で休憩時間を知らせるチャイムも鳴ったけれど、他のみんなも自分の絵に夢中のようで、数人がトイレに立っただけだった。私も休憩時間も色塗りを続けて、気がつくと、四限目の終わり、片付けの時間になっていた。  すぐに行くと混雑してたから、人が減ってから洗い場へと向かう。でも、まだ男子が数人残っていて、パレットを洗いながら話していた。 「あー、午後からだるいなぁ」 「え、お前、体育好きじゃなかったっけ?」 「好きだけど、短距離走だって聞いたんだ」 「あ、それはだるいわ」 「雨降ってくんないかなぁ」 「今日は天気予報、晴れって言ってたし、無理だろ」  話しているのを聞いて、つい、ハムアキラが言っていたことを口にしてしまう。 「雨、降るかもしれないって聞いたよ」  私の言葉に、男子達は若干呆れた顔をする。 「え、降るわけないじゃん。今日の天気は晴れだってこいつが言ったばかじゃん」 「そうだけど……」  でも、ハムアキラは自信満々だったし、『雨が降るから気を付けて』って言われて、私は素直に信じていた。 「行こうぜ」  反論できない私を置いて、男子達は行ってしまった。  余計な事言わなきゃよかったかな。  後悔しながら道具を洗って、教室へと戻った。
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