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8.ハムアキラの食事
午後からの授業は雨が降った以外は順調に終わった。
私はハムアキラが心配で、学校が終わるとランドセルを掴んで家に走った。
「ただいま!」
お父さんもお母さんも仕事でいないから、玄関の鍵を開けて鞄を開く。
「うぅ……、気持ち悪いのじゃ……」
「ハムアキラ、大丈夫⁉」
そっとハムアキラを手のひらの上に乗せる。
「お水飲む? それとも、何か食べる?」
「み、水をくれなのじゃ……」
「わかった!」
小さめのコップに水を汲んで差し出すと、ハムアキラはコップに顔を突っ込むようにして飲み始める。
「落ちない? 大丈夫?」
心配した側から、丸っとした体がズルっとコップの中に滑り落ちる。
「ハ、ハムアキラー⁉」
慌てて引っ張り上げると、ハムアキラは大きく息を吐きだした。
「ふぅ、危なかったのじゃ」
「本当だよ!」
「じゃが、お水は美味しかったのじゃ」
そうして、小さな体を震わせて体に付いた水を飛ばした。
「うわっ、ちょっと!」
「にゅ?」
「もう、私も濡れちゃったじゃん」
「本当じゃ……。心晴、申し訳ないのじゃ」
「……しょうがない、タオルで拭くからいいよ」
一緒に洗面台に行き、手を洗ってからハムアキラをタオルで包む。
「ふかふかなのじゃ!」
タオルにくるまれて喜ぶハムアキラに、私も笑ってしまう。
そして、台所でお菓子を調達して部屋に向かう。
ランドセルを置いて、宿題を取り出してからお菓子の袋を開けてあげる。
「ポテチじゃー!」
飛び跳ねるハムアキラを見ながら私は自分の分のお菓子を開けた。
「その赤い箱はなんじゃ?」
「これはポッキーだよ」
「ポッキー?」
「食べてみる?」
「欲しいのじゃ!」
一本取って差し出すと、ちょっとハムアキラには長いみたい。半分に折ってから渡してあげた。
「ふむ、では一口。……こ、これは!」
両手で持ったポッキーをカリッとかじった後、猛烈な勢いでかじっていく。一瞬で無くなってしまったポッキーに、ハムアキラは呆然としている。
「一瞬で、なくなてしまったのじゃ」
「もう一本いる……?」
「いいのか⁉」
「はい、どうぞ」
もう一本食べて満足したのか、膨れたお腹を撫でながら小さな足を投げ出してくつろぎモードだ。
「今更だけど、ハムアキラはお菓子ばっかりでご飯は食べなくて大丈夫なの?」
「うむ、わしはこの人形の体を借りておるだけじゃから、基本、水や食べ物は不要なのじゃ」
「えぇ⁉」
今までの行動からとてもそうは思えない。そんな私の考えを読み取ったように、ハムアキラは続ける。
「でも、わし自身が疲れたり、陰陽師としての力を使うと、その分のエネルギーが必要となるのじゃ」
「あ、それで、お菓子を食べたんだ」
「うむ。昨日は久々に目覚めたのでエネルギーの補給が必要じゃった。今日は鞄の中で本に押しつぶされたり散々な目にあったからな。疲れたのじゃ」
「なら、何か食べたい時は教えてね」
毎回、ご飯やお水を用意する必要はなさそうでほっとする。
「助かるのじゃ。千晴を見守っておった時はこっそり残り物をつまんでおったからの、大変じゃった」
ハムアキラは何か思い出す様に遠い目をしている。
「そうなんだ。あ、ポテチもらうね」
「もちろんどうぞなのじゃ。ふむ、それは何じゃ?」
「ん? 宿題だよ」
ハムアキラが取り出しておいた宿題の算数のドリルをのぞき込む。パラパラとめくってあげると、感心したような声を上げた。
「ほう、心晴はこのような難しき計算をできるのじゃな」
「学校で習うし、みんなこれ位出来るよ」
「じゃが、習うからといって、ただ聞いているだけでは出来るようにならぬ。心晴が努力しているからこその結果じゃろう。わしの子孫はすごいのじゃな」
満足げに頷くハムアキラに褒められて、何だかこそばゆくなってしまう。
「……そろそろ宿題しようかな。ハムアキラはその辺の本を適当に読んどいていいよ」
「では、お言葉に甘えてこちらの本を借りるのじゃ」
そうして、理科の教科書を取り出して、ハムアキラは静かに読み始めた。私も、今日の分の宿題に取りかかった。
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