アトジマイ

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 一緒に遊んでいたグループの子たちは「夏休みに何かトラブルがあった」と思っているだろうが、口にはしない。とはいえ、普通に挨拶や「いつまで暑いんだろうね」なんて雑談にもならない会話はする。上辺を撫でるような状況がむしろありがたかった。それでも、失ってしまったものの大きさに直面し、困惑もある。不思議と怒りや悲しみはまだない。そこまで追いついていないのだと思う。  9月半ば、夕飯時に母親から「そういえば、あんたが気にしてた古い団地、取り壊すらしいわよ」と言われて、むせてしまった。 「ちょっと、大丈夫? お水飲む?」 「…ゲホゲホ……ッッ、だだいじょ、ぶ。何、いきなり」 「私も今日、近所の人に聞いたのよ~。まあね、誰も住んでない古い団地なんて薄気味悪いし、木が覆い茂ってて虫とかの問題もあるじゃない。何より無断で侵入して動画を、はいそう? はいしん? してる人たちがいたんですって。治安的にも、そのままってわけにはいかないわよね」 「動画って……ネットで?」 「そうらしいわよ。まったく、今の子たちは何を考えてるのかしらね~」  
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