魔の存在

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 何もやってないヤツが偉そうに語ってんじゃねーよって声が聞こえてきそう。てか、聞こえる。うん。確かに、私、古沼葵としては何もしていない。去年、高校1年で同じクラスになり、近所に住んでいることもあって意気投合した春香が動画配信をやっているので、時々、撮影やアイデア出しを手伝ってるだけ。  春香の動画も最初は自分の好きなコスメや料理を紹介したり、限定コスメを発売日に買いに行く様子を映す、女子高生の日常Vlogだった。  正直、春香は同性から見ても、かわいい。それも「ちょうどいい」かわいさ。自分とは次元が違う、共感ポイントが見つからないほど美人でもなく、嫉妬を買うほどの主張もない。グループの中で3番目くらいのかわいさといえば、わかりやすいかもしれない。真っ先に目を引くタイプではないけれど、時間とともにじわじわかわいい成分が染みてくる。あれ、あの子、かわいいじゃん。何で気づかなかったんだろう? そう疑問に思ったら、最後、今まで隠れていたかわいさがどんどん見えてきて止まらなくなるタイプ……なんだと思う。  Vlog的な動画を始めてから、それが現れだした。いつもはやらない濃いめのメイクや普段着ない色の服を着ることで、本領発揮し始めたようだった。となると、男性の視聴者が増え始め、コメントで「綺麗な足がもっと見たい」だの「水着も似合いそう。買ってあげるよ」だの、より露出させようとするコメントが増えていく。  うちらのグループは完全陽キャのパリピ集団とまではいかないけど、季節のイベントも大好き、お出かけもマンガもお笑いも、面白いことにはとりあえず全力で乗っかる半陽半陰パリピで、春香も「ウケるなら、足ぐらい見せるよー!」とはならない。でも、ファンになってくれそうな層を無視もできなくて、悩んでいた。
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