魔の存在

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 春香はじっと考えこんだまま、何も話さなくなった。今まで夜の学校や神社付近で撮影しても何も起こらなかったのが、ハードルを低くしているに違いない。それもわかる。夏限定の動画なんだし、とりあえず1回だけ撮影してみて、嫌な感じがしたら中止すればいい。そう思わなくもない。でも、高志さんの言葉「永久に消えない」が気にかかる。もしも、仮に何かよくないモノが映りこんで、それに気づかないままアップした場合、どうなるんだろう。  よく心霊写真を神社やお寺でお焚き上げしてもらうというが、ネットは不可能だ。「もしも」を考えるとやめたほうがいいと思うが、怖がってばかりいては何もできないのも事実だ。  新たな視聴者も増え始めていて、しかも、夏目前…。今を逃したら、こんなチャンスは二度とない。  手伝っているだけの私ですら、そう思うのだから、当の本人はもっと感じていただろう。チャンスを逃したくない焦りと期待、でも、拭えない後ろめたさ、無視しようとしても浮き出てくる恐怖。だから、翌日、春香に「昨日、美央に提案されたやつ、やってみようと思うんだけど」と言われたときも、否定できなかった。 「そっか。場所とかちゃんと調べて決めよう。あと、一応、御守りも用意しとこう」 「うん。明後日、お兄ちゃんに話すから、葵もうち来てね」 「明後日…日曜か。わかった。それまでに、私も調べてみるね」  迷いながらも、やる方向に流されはじめた瞬間だった。  廃墟でネット検索すると廃校やビル、病院跡が表示された。一応、目ぼしい画像はクリックして確認してみたが、イマイチ、ピンとこない。これなら、真夜中の学校を1周するほうがヒヤッとしそうだ。まあ、日曜に高志さんと相談すればいいか。前のときのように、止めてくれるかもしれない。
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