アトジマイ

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アトジマイ

 2学期が始まれば孤独はやわらぐと思っていたが、そんな甘くない。夏前は春香と動画の企画について話したり、美央と口喧嘩してはまわりの友達に「まあまあ」となだめてもらう、何でもない日常を送っていた。今はその面影だけが残る、遥か彼方の世界にいるようだ。きっと、二度と手に入らない生活。  美央は登校しておらず、春香とは朝、一瞬、目を合わすだけで何も話さない。当然、他の友達に「何何? 夏休みにケンカでもしたの?」と聞かれたが、受験勉強を始めるだけと言って、休み時間は参考書を広げているとそれ以上追及してこなかった。春香も教室にいるときは本を読んでいるか、気づくとどこかにいなくなっていた。その気持ちはよくわかる。楽しそうに夏の思い出を話し、笑い合っている空間に居続けると胸が締め付けられる。つい、あんな撮影をしなければ…と考えて、思い出しそうになる。さすがに教室で写経を始めるわけにはいかず、勉強を口実にした。それでも足りないときは、イヤホンで聞きながら口の中で暗唱する。  しばらくして、担任教師から美央は入院しているため、当分登校できないことが告げられた。クラスの代表で数人お見舞いに行く話になったが、私と春香は立候補しないし、行こうとも誘われなかった。
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