ちょっとお節介させていただきます!〈3〉

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 倒れていた男は救急搬送された。まぁ恐らく命は助かるだろう。  そしてこの物々しい状況から見ても、事件性が高いことは明らかだ。十中八九、あの女が盛ったクスリが原因だろう。  僕は駆けつけた警察官に状況を話した。男を発見する直前に、女が大声を上げて逃げるように店を出て行ったことも。 「女性はずいぶんと動転している様子で、お兄さんの肩にぶつかりながら走っていった、と。その後、あちらの方の証言ですと、女性が店を出た後、お兄さんがあのブースを訪れて、倒れていた男性の発見に至ったということですが、なぜあのブースへ行ったんです?」  ペンを構えながら、目の奥で何かを捉えるように僕を見つめる。  ふん。あの客のうちの一人が、漫画を探している風に僕の行動を見ていたか。 「出て行った女性の方も顔面蒼白でしたので、ただのカップルの喧嘩という雰囲気ではない、何か大変な事が起こったのではという正義感からです」 「なるほど……。いやお兄さんのおかげで発見が早くてよかったですよ。その点はありがとうございました」  僕は微笑んで会釈した。 「ところで、本当にその時初めて、あのブースへ行ったんですか?」  僕に礼を言った時点から、わずかに鋭い表情へ変わる警察官。 「え? ええ、もちろんそうですが」 「いやね、あの部屋にはカップが3個置かれてたんですよ。まるで3人いたかのように。お知り合い、ということは?」 「知り合い? いえ、全く存じ上げません。あぁ、そうか。そもそも僕はあの時、ドリンクコーナーへ向かっていたんです。その途中で女性が出て来た。そしてコーヒーを持ったまま、男性が気になったのであのブースへ行ったんです。すると男性の様子がおかしいので、慌ててそのコーヒーを置いて意識確認をしたんだ。うん、確かに、置いた記憶があります」 「そうですか」  手帳にすらすらと書き込む警察官。  ふう。なぜ今日に限って、ネットカフェで執筆することにしたんだ僕は。そういえばもう、23時過ぎか。昼を食べてから、何も食べずに執筆していたものだから腹も減ってきた。ここらで帰してもらえるとありがたいんだが。 「僕の知る限りの状況は全てお話しましたので、よろしいでしょうか」 「あぁお兄さん、待って。念の為、署でお話聞かせていただけますか? ちょっと、身分証も見せていただけると」  ほほう。第一発見者が最も怪しいとはこのことか。それとも僕、そんなに怪しいかな。 「わかりました。では、一本仕事の電話をしてからでも?」  古宿警察署の取調室で待っていると、事情聴取の担当官が入ってきた。50代くらいの、ギトッと日に焼けた男だ。 「お待たせしました。捜査一課の三谷といいます。えー、たかばやしー、のりたださん」 「はい」 「先ほどのネットカフェでの事件の目撃者であり第一発見者、ま、つまり参考人ちゅうことで、詳しくお話を聞きたいんですが、すみませんね遅い時間に。初動捜査っちゅいまして。これが肝心なんですわ。答えたくないことがあれば拒否してかまいません。よろしいですかい?」 「はい」 「えー、高林さんのご職業は?」 「作家をしています」 「へー、作家さん? え、有名な作家さんかい?」 「いえいえ、僕なんて。鳴かず飛ばずで」 「まぁー芸事の世界は厳しいからなぁ。売れてる作家さんがこんなとこに来てちゃいかんしな。ガハハハハ」 「いやまったくその通りで」  わはははと返しておいた。 「で。女が例のブースから飛び出て来て、異変を感じた高林さんはブースの戸をノックし、返事がないので開けてみると、男が倒れていた、と。間違いありませんかい?」 「ええ、まさにその通りです」 「ふん。相当に正義感が強いか、お節介屋か、あるいは、男が危ないことを予測できていたか」  三谷刑事の目が僕を捉える。 「普段から創作のためにアンテナを張っているので、異常事態への勘は鋭いかもしれません」 「なるほどう。まぁいずれにしても、男を助けようとした。あの男が死ぬことは望んでいなかった、という訳ですな」  顎に手を当てる三谷刑事。 「? ええ、もちろんです」 「逆に言えば、あの男が死ぬと困る?」  僕の瞳の奥の奥を読み取るような視線が伸びてくる。 「はい?」 「いやいや、あらゆる可能性を考えるのが我々の仕事なもんでね。ガハハハハ。まぁね、もちろん逃げた女の方を重点的に追ってますがね。被害にあった男にも仲間は多いようなんで、念のための聞き込みですよ」 「仲間……。なるほど、僕がその仲間なのではないかと」 「一応ね、もう少し、待ってくれるかな」  深夜の取調室に一人、取り残された。まぁ、僕の疑いが晴れるまでにはそう時間はかからないだろう。それよりも……。  さっきここへ来る前に、編集の大泉には連絡した。うまく繋いでくれているといいが。そして、もう一人。頼むぞ。  ふう。しかし腹が減ったな。詩子のおにぎりが食べたい。  
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